麻倉氏: さまざまな効果があります。例えば、従来のハイビジョン(BT.709)では、白ピークの上限が100nitsと決まっています。対してHDRでは1万nitsまで許容します。また次世代ULTRA HD BLU-RAYの運用基準ではピーク輝度が1000nitsで平均輝度は400nits、狭い範囲のピーク輝度が1000nitsです。
ドルビービジョンは最高1万nitsですが、厳密には決めていません。というのも、ドルビーは4000nitsまで表示できる「パルサー」という明るい液晶モニターを持っていますが、ほかの会社は持っていないからです。ドルビー以外で4K BDのオーサリングを行う場合、リファレンスになりそうなのがソニーの有機ELマスターモニター「BVM-X300」くらいです。X300ではピーク輝度が1000nitsまで出ますから。しかし、ハリウッドのスタジオでは「ピーク輝度は作品や監督によって変わるのではないか」と見ています。結局、監督の意図によって決まるということですね。
麻倉氏: ビット深度も変わるので、階調が出てきます。現行システムでは8bitですが、4K対応BDではそれが10bitになり、ドルビービジョンでは12bitになります。これにより、明るいシーンは明るく光るだけでなく、その中に階調が見えてくるのです。例えば、現在のテレビで明るいシーンの白いシャツなどは飛んでしまいますが、そこにシワなどがあり、影も出て凹凸が分かるようになります。
黒の階調も出てきます。これにより、今まではスタンダードダイナミックレンジの中で黒側も沈められていましたが、それが見えてくる可能性が高い。DCIがデジタルカメラの再現性を検証するために作った映像(STEM)があるのですが、それをHDR編集したものを見ると、すごく分かりやすいです。例えば、ランタンの灯りが壁にあたっているシーンでは、壁の中にディティールが見えます。bit深度を上げることで情報量が増えるわけですね。
麻倉氏: そうしたたくさんのメリットが一度に来るので、ハリウッドのスタジオでは「HDRで世の中が変わるぞ」とたいへん乗り気です。昨年、取材したときは、そんな話は出てきませんでしたよ。デジタルブリッジやコピーの話がメインだったのに、最近は全く言わなくなりました。ドルビーが説得工作にいったのが昨年春で、その後でスタジオは皆、浮き足だったようですね。
――HDR対応の明るい映像はどうやって作るのでしょうか
麻倉氏: 現在のデジタルシネマ用カメラは16bitで撮影する能力があり、階調でいうと6万階調程度が出せます。残念ながら現行の8bitシステムでは上の8bit分を捨てている状況です。
古い映画でも、フィルムからスキャンしたときのマスターは16bitのため、実はHDRに対応しています。ソニー・ピクチャーズ傘下のリストア専門プロダクション「カラー・ワークス」を取材したところ、やはり4K&16bitでスキャンしていました。話を聞いたところ、2008年からすべて4Kでスキャンしており、2年前からは16bitになっているそうです。つまり、最近スキャンした作品はすべてHDRに対応するリソースを持っていることになるのです。
一方、放送コンテンツに関しては、既にBT.2020はあってもHDRは規定していません。このため、NHKやBBCなどが、いかにして放送にHDRを取り込むか、という検討を始めました。また欧州のEBU欧州放送連合は2段階でUHDに移行する方針で、現在は4Kの8bitですが、2017年からの第2フェーズではHDRとBT.2020を完全にサポートする方針です。
――4K対応BDの仕様をもう少し詳しく教えてください。メディアや音声はどうなりますか?
麻倉氏: 音声はほぼ現行規格のままです。ディスクは3種類があり、2層タイプは50Gバイトと66Gバイト。3層メディアは100Gバイトの容量を持ちます。転送レートは50Gバイトのディスクで最大82Mbps、66Gバイトと100Gバイトは108Mbpsから128Mbpsまでの間で動的に変更できます。
麻倉氏: 面白いのは、「ULTRA HD Blu-ray」に2Kバージョンも規定されることです。解像度は現行のまま、HDRなどでより高画質になるというもの。しかし、ワーナーは、「やはり“最高の体験”をお届けするULTRA HD BLU-RAYなのだから、あえて2K版を出すことはあり得ないでしょう」と話していました。
――HDR対応コンテンツの登場が楽しみになってきました
麻倉氏: 既にDVDやBDで販売されている映画の再販も面白いと思います。これまでは解像度が上がるだけでしたが、この次は解像感とダイナミックレンジの両方が良くなるのですから。BDでもそれなりに良くなりましたが、さらに1枚、ベールをはがしたような映像が見られるのではないでしょうか。
もちろん、HDRを派手に使ってしまうと作品性が損なわれるかもしれません。逆に「映画の公開当時の現像システムでは得られなかったディレクターズ・インテンションに迫った映像も見られる可能性がある」と話すスタジオ関係者もいました。作品性そのものも明確になってくる可能性があります。
ただ、古い映画の監督は既に亡くなっているケースもありますので、今後はそういったケースで、どうやって同意を得るのかといった問題は生じる可能性がありますね。
――そのほか、CESで気になったトピックはありますか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR