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困難に直面しても「楽しかった」――「ルンバ」登場までの軌跡iRobot研究(1)(1/3 ページ)

» 2015年03月04日 15時50分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 ロボット掃除機の先駆けであり、今やその代名詞にもなっている米iRobotの「Roomba」(ルンバ)。そして2011年の福島第一原発事故の際、がれきが散乱する原子炉建屋から貴重な情報をもらした「PackBot」(パックボット)もiRobotのロボットだった。まったく異なる2つのロボットを作り出したiRobotとは、一体どのような企業なのか。今回はその軌跡を辿りつつ、ルンバの兄弟たちを紹介しよう。

「ルンバ」とコリン・アングルCEO

iRobotの「510 PackBot」(左)とPackBotが原子炉建屋内で作業する様子(右の画像は東京電力の報道資料より)

 iRobotが設立されたのは1990年。当時、マサチューセッツ工科大学(MIT)の「AIラボ」で所長を務めていたロドニー・ブルックス氏と、ブルックス氏の教え子で大学院生だったコリン・アングル氏、ヘレン・グレイナー氏の3人で立ち上げた。ブルックス氏は、ロボットの人工知能に生物学的なアプローチを持ち込んだ「Subsumption Architecture」(サブサンプション・アーキテクチャー、以下SA理論)を1986年に提唱し、その後のロボット開発に多大な影響を与えたロボット界の重鎮。そしてSA理論を実践・具現化するために設立されたのがiRobotだった。ちなみにiRobotという社名は、米国の著名SF作家、アイザック・アシモフの「われはロボット」(原題:I, Robot)にインスパイアされたものだ。

3人の創設者と米マサチューセッツ州Somervilleにあった最初のオフィス

 翌1991年には、同社初のロボット「Genghis」(ジンギス)が登場する。ジンギスは、当時NASA(アメリカ航空宇宙局)が進めていた火星探査計画における探査機(プロトタイプ)の1つ。昆虫をモチーフにした6本足が特長の自律歩行ロボットだ。実際に火星に行くことはなかったものの、その機動性と知的プログラムはその後のロボットの基礎になっている。

地球外探査を目的に開発された「Genghis」(ジンギス)。現在は「スミソニアン国立航空宇宙博物館」に展示されている

 1996年には、磯に埋められている地雷を探査・除去するためのロボット「Ariel」(アリエル)、翌1997年には、米国防省国防高等研究計画庁(DARPA)から資金供与を受けて多目的作業用ロボット「Urbie」(アービー)を開発するなど、iRobotは設立から10年ほどは公的機関や企業からの委託研究を中心に事業を展開していた。しかし市販品のように大量販売する製品ではなく、大きな利益にはつながりにくい。コリン・アングルCEOは、次第に市販の製品を作りたいと思い始める。

磯で活躍する「Ariel」(アリエル)。iRobotとしては初のアームを持ったロボットで、足のセンサーで金属を探し出し、それが地雷であれば地面に埋め込んで爆発させることができた。この時のノウハウは、後の「PackBot」に応用される

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