パイオニアブランドから登場したフラッグシップヘッドフォン「SE-MASTER1」のお披露目が、「春のヘッドフォン祭2015」のパイオニアブースで行われた。開発を主導した同社イノベーション事業本部技術部部長の瑤寺晃(たまでらあきら)氏と、アドバイザーとして開発に関わったオーディオ評論家の野村ケンジ氏がトークショーを行い、集まった参加者に開発秘話を語った。
瑤寺氏は入社28年の大ベテランエンジニアで、過去にEXシリーズやピュアモルトシリーズといったスピーカーの設計を手がけた。開発の話が起こったのは今から6年前だが、瑤寺氏は5年前にヘッドフォン開発の部門へ移り、今回発表された「SE-MASTER1」の設計に携わったという。「実際に『これはいけそうだ!』と感じたのはいつですか?」という野村氏の質問に対して、瑤寺氏は「だいたい昨年くらいですかね」と開発を振り返った。
長いパイオニアの歴史の中で、実はフラッグシップに位置づけられるヘッドフォンは一度も発売されたことがないという。初のフラッグシップ機を今回世に送り出すにあたっては、細部へのこだわりを追及した。「私の役割は『パイオニアのフラッグシップに相応しい音』を創ることでした。ハイエンドのユーザーが何に満足するか、パイオニアらしさとは何か、というところをこだわりぬいています」(瑤寺氏)。
本体は剛性を確保するために金属パーツを多用しているが、その結果出てくる金属特有の響きを消すことに苦心したという。「ハウジングカバーを内蔵化すると現れる金属の付帯音を取る工夫を随所に取り入れています。例えば樹脂バッフルはアルミダイキャストで固定し、3点のネジをスパイク留めした上で、さらに真鍮(しんちゅう)をかませています。こうすることでしっかり留めながら、アルミの音を載せないというポイントを克服しました。スピーカーの制振発想が多分に用いたほか、ヘッドバンドの裏側に制振用の素材をはるなど、響きの制御は徹底的にしています」(瑤寺氏)。
装着感の追及にも余念がない。特徴的なのはヘッドバンドの脇に張ってある「テンションロッド」という棒だ。通常ヘッドフォンの側圧は一定だが、「SE-MASTER1」はテンションロッドを取り替えることで、ユーザーが好みに合わせて側圧を調整できる。「イヤーパッドには羊皮風の柔らかい合皮を用い、イヤーパットは前後で厚みが違います。日本人向けの装着感を追求し、実際に装着してウレタンの質なども検証しました。やはり長く着けていただかないと意味がないですからね」(瑤寺氏)。
アドバイザーの野村氏も、こうしたこだわりの要素を指摘している。素材にはアルミやジュラルミンなどの金属パーツをふんだんに使用しているが、それでも軽量化に努めて重量は460グラムに抑えた。オープンエアーとしては少々重めだが、それ以上に音のレベルは数段上がったという。例えばアウターのハウジング部分はプラスチックだったものを、軽い音が乗ってしまうのを嫌ってアルミに変更した。
「『今できる最高を目指そう。金に糸目は付けない!』っていう感じですよね。音もパイオニアらしいですが、作り方としてもパイオニアらしいです。開発にあたっては僕個人だけではなく内外多くの意見を聞き、できるだけユーザーの意見を反映してもらったつもりです。ここ重要ですよ」と野村氏は笑った。
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