中野サンプラザで10月24日と25日に開催された「秋のヘッドフォン祭り2015」。世界中のオーディオブランドが東京・中野に集結した。こうしたオーディオショウの醍醐味(だいごみ)といえば、普段は聴けないハイエンドモデルも試聴できること。バイクやクルマが買えてしまうような驚きのプライスタグを引っさげたハイエンドモデルは、それだけにブランドの哲学やこだわりがふんだんに詰め込まれている。そんな“オーディオショウの華”ともいえるハイエンド製品に迫った。
超弩級のアンプで知られるゴールドムンドがヘッドフォンアンプを「Telos headphone Ampliphire THA2」へ更新した。昨年秋のヘッドフォン祭りで165万円という前代未聞のプライスタグを引っ提げてヘッドフォンアンプ市場へ殴り込みをかけたスイスの老舗ブランド。今回のモデルチェンジでは音質と同時に価格も198万円へと強化され、ただでさえ一般人に縁遠かったモデルがさらに縁遠くなった。
モデルチェンジの目玉はDSP回路に「ジークフリートリンキッシュ」モードという新機能を搭載したこと。ゴールドムンドでは世界中のスピーカーデーターを蓄積したデータベースを所有しており、製品開発にあたってはこのデータベース活用して設計を進める。この「プロテウス」と呼ばれる一連のデータベース技術のうち、「レオナルド」というシミュレーション分野をヘッドフォン専用にチューンアップした音質調整プログラムが、今回搭載されたジークフリートリンキッシュモードの正体だ。要するに「ウチで取ったデータを使って、アナタのヘッドフォンに合わせた最適調整をしますよ」というDSP技術である。北欧神話を思わせる名前だが、その由来は技術の根幹となる物理学理論だそうだ。
また今回のTHA2だが、輸入元であるゴールドムンドジャパン社長の山崎純一氏によると、日本仕様は本国のそれと比較してかなり徹底した音質強化を随所に仕込んであるという。例えば電源回路のトランスが、本国仕様では右回路用、左回路用、デジタル回路用の3個なのに対して、日本仕様ではデジタル回路をDSP部とDAC部で分離して4個にしてあるという。
それだけではなく、脚部のインシュレーターを本国のゴム足パーツから、日本仕様はペアで4000万円もするモノラルパワーアンプ「Telos 5000」と同じものを採用したという。260キログラムの重量に耐える脚をわざわざヘッドフォンアンプに採用したあたり、日本仕様の本気ぶりが伺える。
「アンプ自体もそれぞれのパートを別筐体に入れれば、だいたいそのままコンポーネントになってしまうクオリティーです。基礎技術は数百万円のセパレートアンプと同じなので、ゴールドムンドの歴史を小さな筐体に詰め込んだアンプといえますね。その上でヘッドフォンに対してDSPをかけるというのは、かなり実験的でもあります。ヘッドフォン用というよりも、むしろスピーカーの鳴らし方に近いと思います」(山崎氏)
光城精工のブースでは金色のヘッドフォンアンプ「FARAD KPS-01」が展示されていた。同社設立25周年を記念したモデルであるFARADは、アンプ部を東大阪のアクセサリーメーカーであるORBが提供し、そこにこだわりの電源を搭載した、生産台数300個の限定品だ。生産をORBが引き受け、仕上げと検品は光城精工が受け持つ。価格は12万8000円(税別)。
回路設計においては徹底的に音質へのこだわりを追求しており、電源部にもアンプ部にもICを一切使用しない完全ディスクリートの純A級アンプ構成となっている。両社ともに音に対するこだわりの深いメーカーであるだけに、光城精工側がORB側から新規設計のアンプ回路を最初に受け取った際、「これはうちの音じゃない」ということでアンプの抵抗値やトランジスタなどに若干の変更を求めたということもあった。
電源は単四形乾電池6本を直列で接続するDC9ボルト。内蔵バッテリーや単三形乾電池ではなく、あえて単四形乾電池で9ボルトを取り出すことで、通常のモバイル機器で必要になるスイッチングでの昇圧を省いている。また、単四形乾電池はバッテリーや単三形乾電池よりも内部インピーダンスが低いため、徹底したノイズ除去のためにあえて採用しているとのことだ。
こういったこだわりが目に見えて感じるのが筐体の大きさ。ORBの通常モデル「JADE NEXT」と比較して倍の厚さのケースには、電源基盤とアンプ基板が二層構造で収められている。たっぷり余裕の電源を贅沢に使って音を安定させるという設計思想は、正にハイエンドアンプのそれである。
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