高齢化社会の課題に取り組んだエンジニアたち――「JDA 2016」(2/2 ページ)
「第11回 ジェームズ ダイソン アワード 2016」(以下、JDA)の国内表彰式が開催された。今年は、“高齢化社会”の課題に取り組んだ作品が国内審査の1位と2位を占めた。どちらも製品化を目指して改良中だ。
重い果物の収穫をアシストする「TasKi」
国内審査2位は、中央大学 理工学部精密機械工学科の山田泰之助教授が考案した「TasKi」だ。TasKiは、腕を長時間あげたままにして行う果実の収穫作業などをサポートする“道具”。ロボットやパワードスーツのような大がかりな仕掛けではなく、背中のリンク機構で手にかかる重力を軽減し、2kgほどのアシスト力を発揮するという。電源を必要としないことも“道具”という理由の1つだ。
山田氏は、農業を営む祖父母を見てTasKiの開発を思い立った。農家の平均年齢が65歳を超え、高齢化と後継者不足が問題になっているが、山田氏によると「高齢の農家は単に生活のために仕事を続けているわけではない」という。「農業は既に生活の一部になっていて、体力が劣ってきても続けている。しかし、大変な時期に手伝ってくれる人はいない」。中でも注目したのは、ブドウや桃などを高い場所で行う収穫作業。重い果実を自分の肩よりも高い場所で受け止め、慎重に運ぶ作業は肩への負担が大きく、「肩がガチガチになって動かなくなる人が多い」
普段はロボットの研究をしている山田氏だが、TasKiは最初から複雑な電子機器ではなく、シンプルな“道具”にすると決めていた。複雑な機械は、駆動音や煩雑な操作、メンテナンスなども必要となり、それ自体が利用者のストレスにつながってしまう。だからシンプルな機構と使い勝手にこだわった。「TasKiは操作方法を憶える必要がない。つまり“着る”だけで機能を発揮できる。使用時にモーター音を出すこともなく、そのために壊れる心配も少ない」(同氏)
現在の課題は、1.4kgほどあるTaskiの重量だ。「背負えば足腰に負担がかかるため、今後はまず軽くしたい。そして安く製造できるようにして、1万円以下で販売できたらいいと思う」(山田氏)
起業する動きも加速
高齢化社会の中で生じた課題に取り組んだ2つの作品は、いずれも本気で製品化を検討している。今回で審査員を退くというエンジニアの田川欣哉氏は、「発明するだけでなく、ビジネスとして起業する動き」を歓迎しながら、同時に「BTC型」の重要性を説いた。
BTCとは、ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)という3要素を有機的に連動させることでイノベーションを生み出すアプローチ。製品のコンセプトを考え、試作品を作るだけではなく、仮説立案と検証のプロセスを迅速に行い、マーケットで受け入れられるものに仕上げるビジネス感覚だ。田川氏は、自らの経験を元に「起業などの際には、3つの要素をすべてやらなければならないことが絶対にある」と指摘。その上で、「ぜひ、今の状況をメモしておいてほしい。若い人たちがBTCの視点を持つことで“最強の人材”になるだろう」とエールを送った。
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