より高級なサービスを受けられるのは?――JAL VS ANA“国内線プレミアム”競争神尾寿の時事日想

» 2007年08月31日 10時49分 公開
[神尾寿Business Media 誠]
JAL「ファーストクラス」のロゴ

 8月28日、日本航空が国内線「ファーストクラス」のサービス内容を発表した。10月1日に予約受付を開始し、12月1日に羽田―伊丹線でサービスを開始する(8月30日の記事参照)

 今回導入される国内線ファーストクラスは、同社が2004年6月から設定していた広めの上級席「クラスJ」のさらに上のクラスになり、国内線では最上位クラスとなる。座席ピッチが約130センチ、座面幅が約53センチ、肘掛幅が約33センチという大きな革張りのシートに、クラスJでは設定されていなかった食事や茶菓のサービスをプラス。空港では、専用カウンターや優先搭乗、荷物の優先取り扱いなどを行うという。まずはビジネス利用客が多く、他の航空会社や新幹線との競合も激しい羽田―伊丹(大阪)線から導入。その後、羽田―福岡、羽田―札幌など、ビジネス路線を中心に展開されていく模様だ。

「ファーストクラス」で採用されるシート。座席ピッチが約130センチ、座面幅が約53センチ、肘掛幅 が約33センチと大きなシートで、最大42度のリクライニングに対応

2004年に明暗を分けた国内線上級席の戦略

 以前のコラムでも触れたが、今回JALが導入する国内線ファーストクラスは、全日本空輸(ANA)の「スーパーシートプレミアム」に対抗するものだ。この国内線上級席の戦略で、両社の歴史を振り返ってみると、なかなか興味深い。

 国内線の上級席はかつては「スーパーシート」と呼ばれており、1985年にANAが設定したのが始まりだ。その後、JAL、JASなども追随した。

 スーパーシートの方向性で、JALとANAの違いが表れたのは、2004年である。この年、JALとJASが経営統合。JALは国内線スーパーシートを、より料金が安いがサービスが縮小された「クラスJ」に衣替えした。クラスJでは、旧スーパーシートに比べてシートピッチが狭くなり、機内食、優先搭乗、荷物の優先取り扱いが打ち切られた。クラスJは手持ち航空券にプラス1000円で利用できるお手頃感を打ち出し、上級席に手が届きやすくしたのだ。

 一方、ANAは2004年に「スーパーシートプレミアム」を導入。JALのクラスJとは反対に、スーパーシートよりも高級化する方向に進んだ。従来料金より割高な別料金体系「スーパーシートプレミアム料金」を新たに設定し、当日に空席があった場合に限り、手持ち航空券からプラス5000円で利用できるようにした。割安航空券との組み合わせによるスーパーシートプレミアムの値崩れを抑えた上で、ゆったりとした席に機内での食事や茶菓の提供、専用優先カウンターに優先搭乗、手荷物の優先返却、搭乗時の上着預かりサービスなど、クラスJとは逆に、値下げよりもサービスの充実に力を入れた。

 このように2004年の段階でJALは上級席の「大衆化」を行い、ANAは「高級化」を行った。どちらも好評なサービスであったが、これら上級席のメインターゲットが客単価の高い“ビジネス客の囲い込み”であることもあって、成功したのはANAの高級化路線だった。

スーパーシートプレミアム以上を目指したJAL

 今回のJAL国内線ファーストクラスでは、ANAのスーパーシートプレミアムの研究と対抗の跡が随所に見られる。まず価格設定はANAより高い“国内線運賃プラス8000円”を基本とし、販売座席数を制限して回数券や特便割引など割引航空券との併用を可能にしている。このため組み合わせによっては、ANAスーパーシートプレミアムの普通価格と同程度の価格になるだろう。

 サービス面では、国際線ビジネスクラスの雰囲気を打ち出すANAに対し、JALは本革張りシートや木目調テーブルなどでファーストクラス級の雰囲気を演出。機内食や空港での優先サービスのラインアップはANAとほぼ同じだが、ファーストクラス利用者はJALの専用ラウンジ(ダイヤモンド・プレミアラウンジまたはサクララウンジ)が利用できる。ANAの専用ラウンジは、飛行機の利用が多いANAマイレージクラブの上位顧客のみしか利用できないため、空港ラウンジではJALファーストクラスの方が優位になる。ANAスーパーシートプレミアムよりも“ちょっと上”の価格とサービスに設定したところに、JALの腐心が垣間見える。

 景気回復や消費者ニーズの二極化の影響もあり、JALもANAも収益率の高いビジネス客や富裕層の獲得と囲い込みに注力している。今回の国内線プレミアムシートの競争もその1つだ。今回のJALのファーストクラス導入にあわせてANAも対抗策の準備を進めており、ANAマイレージクラブ会員やスーパーシートプレミアム利用者へのアンケート調査を行っている。両社の高級化・高付加価値化の競争は、今後さらに激しさを増しそうだ。

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