おサイフケータイでリピート客を狙え――「ぐるなびタッチ」

» 2008年01月18日 19時11分 公開
[房野麻子(聞き手:平賀洋一),ITmedia]

 おサイフケータイは今や、EdyやiDなどの電子マネー用途、モバイルSuicaのような交通系サービス、ビデオレンタルチェーンやカラオケ店の会員証・ポイントサービスなどのさまざまな用途で使われている。

 なかでも最も手軽に利用できるのが、「トルカ」に代表されるクーポンサービスだ。専用アプリを端末にダウンロードすることもなく、会員登録なども不要。おサイフケータイに対応したケータイをリーダーにかざすだけで特典を得られる。ぐるなびの「ぐるなびタッチ」はトルカよりも簡単に導入できるクーポンサービスとして、着実に導入店舗を増やしている。

photophoto ぐるなびタッチは写真のような台にセットされた状態で店舗に置かれる。ユーザーは中央の携帯電話マーク部分に携帯電話をタッチさせる。クリアパネルの間に台紙を挟めるようになっており、店の雰囲気に合わせて変えることができる。裏側はこのように端末本体をセットできるようになっている。ケーブルは電源コンセントに挿す1本のみ

ぐるなびタッチでリピーターを増やしたい

photo ぐるなび 企画department 第2グループ グループ長 津田宗利氏

 ぐるなびタッチは、ぐるなびが2007年9月からスタートしたクーポンサービス。店頭に設置した専用のリーダーにおサイフケータイをかざすと、ぐるなびにある店舗ページのURLが携帯電話に送られ、Webページにあるクーポンやスタンプを入手できる。

 スタンプやクーポンなどの特典情報はサーバ上に置かれているため、タッチするごとにWebページにアクセスする必要があるが、専用アプリや会員登録がいらず、どのキャリアの携帯電話でも使えるのが利点だ。もちろん無料で利用でき、携帯電話の個体識別情報で認証するため個人情報の登録も必要ない。

 ぐるなびタッチはサービス開始後の約3カ月で3600店舗が端末を設置しており、2007年度中に全国1万店で利用できるようになる見込みだという。ぐるなび 企画departmentの津田宗利氏は、ぐるなびタッチの狙いについて「リピーター客を増やすため」と説明する。

 「我々は、“ぐるなび”というサービスを通じて、飲食店さんの集客のお手伝いをしています。“ぐるなびでお店を検索して来店”という方法は、新規のお客さんを呼び込む形としては広く認知されていますが、新規客だけではなくリピーターも増やす必要があります。そこで、お客さんに“もう一度、このお店に来よう”と思って頂けるようなサービスを考えました」(津田氏)

 新サービスの条件として最初に挙がったのが、店側も来店客も簡単に利用できることだった。そのため、単純な紙のスタンプカードや磁気式のポイントカード、クレジットカードとの連携や電子マネー、QRコードやトルカなどが候補に挙がった。

 しかし、紙や磁気のカードは店舗が独自に発行している場合があり、ぐるなびも発行するとサービスが重複してしまう。また、汚れたり紛失する可能性も高く、ぐるなびが得意とするネットサービスとの親和性も低い。店舗独自のクレジットカードは入会した人しかサービスが受けられず、手軽さに難があった。店舗も専用の設備を導入する必要があるなどシステムが大がかりになるため、個人経営や中小企業が多い飲食店業界にはあまり向かない。“手軽に使える”クーポンサービスのトルカに関しては、キャリアがドコモに限定されてしまうというネックがある。QRコードではカメラを起動する手間が必要で、現金をやり取りするレジ前でカメラを使うことの抵抗感も考えられた。

 そこで津田氏らが注目したのが、ある企業が開発したFeliCaリーダーだった。あらかじめ登録した情報をおサイフケータイに読み取らせる、シンプルでコンパクトなデバイスだ。ぐるなびタッチの加入店は、自店のURLが登録されたリーダーを店舗に置いて電源コードをコンセントに挿すだけでサービスを開始できる。ユーザーはおサイフケータイをかざして、そのお店のWebページにアクセスするだけだ。

 さらに、ぐるなびタッチで提供するクーポンやスタンプの内容を変更する、新しいサービスを追加する場合は、ぐるなびタッチのサーバ上で設定を変えるだけですむ。リーダーを回収して情報を書き換える手間は不要だ。

 「ユーザーだけでなく、店舗側に負担を強いるサービスでは意味がありません。もちろん、ぐるなびが展開する従来のネットビジネスと連携しないと、我々のメリットも少ない。ぐるなびタッチであれば、お店もユーザーも簡単に利用でき、ぐるなびのコンテンツ資産を有効利用してもらえます」(津田氏)

おサイフケータイに対する不安

 おサイフケータイの契約台数は2007年度末に4700万台に達すると見込まれている。普及は進んでいるが、利用率は決して高いとはいえない。“使えば便利だけど、最初の設定や機種変更時の切り替えが面倒”といったイメージがあり、利用に消極的なユーザーは少なくない。津田氏もおサイフケータイに対するハードルの高さは意識しつつも、「逆にそこは我々が解消していくべき課題だと思う」と意気込みを見せる。

 「現状の問題点は、主に電子マネー系サービスに関連するものではないでしょうか。登録や機種変更時の手間、セキュリティ面での不安などから“現金でいい”という方も多いと思います。おサイフケータイを使っていただくためのハードルは高いですが、一度ぐるなびタッチを利用した人のリピート率は高い。かざすだけで特典が得られるぐるなびタッチのサービスが広まることで、おサイフケータイへの抵抗感が解消されるとうれしいですね。今後の広がりに期待しています」(津田氏)

実際に使ってみると

photo 6時間以内に同じお店で同じ携帯電話でぐるなびタッチに触れると、画面のような表示になり、スタンプや特典は貯まらないようになっている。また、スタンプや特典はWebサイトにアクセスすることで貯まるようになっているので、タッチしたあとには必ずぐるなびタッチのWebページにアクセスが必要

 店舗がぐるなびタッチを導入するには、まず特典となるサービスを考える必要がある。来店ごとに貯まるスタンプや、“次回来店時に○○をサービス”というクーポンなどだ。現在は店舗側の考えを受けてぐるなびがサービスを構築し、サーバを運営、管理している。「将来は店舗側に管理をある程度まかせて、サービス内容の変更などを店頭やチェーン店の本部からリアルタイムでできるようにしたいと思います」(津田氏)

 ぐるなびタッチのリーダー本体は、タバコの箱を一回り大きくしたくらいのサイズだ。店頭には、台紙が挟み込めるスタンドにセットして置くため、ユーザーは小さめのポスターに携帯をかざしているように感じる。

 このスタンドのサイズは、5月から行った実証実験後のヒアリングで決定した。ある程度目立つ大きさで、店頭のスペースに収まるサイズを考慮したという。また、台紙はぐるなびが用意する各種デザインのほか、店舗が自作することも可能だ。

 導入店舗の多くでは、ぐるなびタッチのリーダーをレジ横に置いている。電源コンセントがあればどこでも置けるため「食事をするテーブルの上に置きたい、という要望もあります。電源とスペースの問題だけなので導入は可能です。水がかかる恐れがあるので防滴加工は必要かもしれませんね」(津田氏)

 ぐるなびタッチのスタンプやクーポンは、来店ごとに提供する必要がある。そのため、1度タッチしたら次回のカウントまでに6時間の制限がある。6時間以内に再び来店してタッチしても、カウントされず特典は得られない。

 「この点もぐるなびタッチならではの機能で、QRコードでは難しい機能です。タッチするごとに発行されるURLはワンタイムURLで、店舗端末の番号と携帯電話の個体識別情報をセットで認識します。制限時間内に同じ店舗で同じユーザーが再びタッチしても、エラーを返す仕組みになっています」(津田氏)

 クーポンやスタンプなどの特典は、ぐるなびタッチのWebサイト内にある「宝物一覧」のメニューに貯まるようになっている。ユーザーが特典を利用する場合はリスト一覧から使う特典を選び、発行ボタンを押す。すると、発行された特典だけが有効になる。

photophoto ぐるなびタッチのトップページ。メニューの「宝物一覧」をクリックすると、貯まっている特典が確認できる(写真は期限ぎれになっている)

店舗の反応は?

 ぐるなびタッチは、すでに3600店舗がサービスを利用しており、店舗側の注目度は高い。また、昼食で訪れた人がその日の夕食にも来てくれるようになったり、ぐるなびタッチがお客さんとのコミュニケーションツールになったりした事例もあるという。

 「お店の雰囲気に合わせて、台紙をオリジナルで作ってくれたり、“ぐるなびタッチここにあります”と書いてもらったりと、独自の展開をしてくれています」(津田氏)

 また、地域間のギャップが少ないのも特徴だ。店舗数の違いから、設置している店舗は都市部に多いが、地方でも実績の出ている店舗は多いという。飲食店の数が少ないため、リピーターになる可能性が高いためだという。

 「都市部では飲食店の選択肢が多いですが、地方ではそうはいかない。ある程度定番のお店が決まっていて、選択肢が狭まっている状態です。そのため、リピーターが生まれる可能性が高く、ぐるなびタッチが最来店のきっかけを作っています。今までのぐるなびサービスと相乗効果があり、かつ、ぐるなびができなかったことも実現できます」(津田氏)

今後のサービスの広がりに期待

 現在は、シンプルなスタンプやクーポンなどのサービスが中心だが、今後、サービスのバリエーションが増える余地は多いにある。例えば、今は店舗ごとに個別でスタンプを貯めなくてはならないが、チェーン店や同系列店のスタンプ共通化などには対応する予定だという。また、ユーザーがその店に来店する導線やリピート数などを、マーケティングデータとして活用することも考えているという。

 ぐるなびタッチはWebサイトでクーポンを配布するだけでも、リアル店舗でフリーペーパーやチラシを配布するだけでもない、全く違う新しいジャンルのサービスといえる。ぐるなびにとっては、店頭から直接ユーザーにアプローチすることで、サービスの幅が大きく広がる可能性がある。

 「ぐるなびタッチというユーザーへのアクセスポイントが加わることで、サービスの幅が二次元から三次元に変わるような変化があります。すごく面白くて可能性のあるテーマですね。反面、考えるべき領域が一気に広がった。その意味では、非常に難しいとも思います」(津田氏)

「ぐるなびタッチを導入してから、男性客が増えました」

 ぐるなびタッチを導入しリピート客を増やすことに成功したのが、ハワイアンレストランの「Loco's TABLE MAHANA(ロコズテーブルマハナ) 赤坂見附店」だ。同店を経営するグループ企業の意向により、2007年9月3日からいち早くぐるなびタッチを導入している。

photophoto Loco's TABLE MAHANA 赤坂見附店(左)。ぐるなびタッチは出入り口そばにあるレジ横に設置。台紙はぐるなびから提供されるものから、店の雰囲気に合ったものを選んでいる

photo 鈴木優介氏

 ぐるなびタッチ導入時の店長、鈴木優介氏に話を聞いた。鈴木氏は2007年末まで赤坂見附店の店長を務め、現在は系列グループの「祭火六本木店」に勤務している。鈴木氏は携帯電話で利用するぐるなびタッチについて「自分自身も興味があった」という。

 赤坂見附は男性率の高い街だが、この店舗の客層は20〜30代の女性が中心だった。そのため、鈴木氏は男性のリピート客を増やしたいと思っていたという。ぐるなびタッチを導入してからは、ランチバイキングを利用した男性客がぐるなびで店舗のディナーメニューを知り、夕食にも来てくれるようになったという。

 「携帯電話を使うのは男性が多いですね。女性はPCで詳しく調べて、クーポンを印刷して利用する方が多いですが、男性は面倒くさがりなのか(笑)、携帯電話の画面で表示したクーポンを活用する人が多いです」(鈴木さん)

photo ぐるなびタッチを利用すると、ぐるなびタッチのWebページにスタンプや特典とともに来店履歴が残る。ここでお店の紹介を見て、再来店してくれることがあるという

 Loco's TABLE MAHANA 赤坂見附店では、ぐるなびタッチの端末をレジ横に置いている。特にランチバイキングは先会計のため、入店時にタッチする人が多いという。ただし、ディナーはテーブル会計になるため、忘れてしまう人もいるようだ。

 また、来店客の中には、おサイフケータイのサービスだから何かを登録しなくてはいけないとか、利用すると個人情報が知られてしまうのでは、というイメージを持っている人もいるという。さらに「EdyやiDのリーダー/ライターだと思われたりして、説明にやっかいなところはあります。でも、一度使ってもらうと納得してもらえるので、最初の一歩だけですね」(鈴木さん)。もちろん、ぐるなびタッチの利用では個人情報も性別の区別も知られることはない。

 現在の特典は、次回来店時にビールを1杯サービスするというもの。「ぐるなびタッチの特典の方が、PCのクーポンよりもお得になるかもしれません。1人でも使えますし」(鈴木さん)

 今後はスタンプサービスも導入したいそうだ。「以前はランチに10回来てくれたら、次回を無料にするサービスをやっていましたが、一旦終了しています。来店数で特典内容が変わるような、お客さんに達成感を味わってもらえるようなサービスをやってみたいですね。スタンプが貯まっていくのは楽しいと思いますので」(鈴木さん)

Loco's TABLE MAHANA 赤坂見附店

ハワイアンレストラン。伝統的なものから現代風にアレンジしたものまで、バラエティ豊かなハワイ料理を楽しめる。料理は日本人の味覚に合わせてあるので、「現地で食べるよりおいしい」とのこと。フラダンスのショウも見られる。ランチはバイキング形式(980円)で、ハワイアン以外の料理も数々揃えている。


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