「国際的なFame(名声)を得たのに、なぜいまだHands-onなのですか?」と聞くと、アナイスは「私が名声だって!? 笑わせないでよ」と言う。だが北米だけでなく日本でもunder the weatherのコアなファンは多い。どこの店でも入荷後すぐに売れてしまう。
事業が軌道に乗った今もHands-on――自分でデザインし、ミシンに向かい縫製する。出荷できるのは週にせいぜい20個。現在の夫・サムが手伝っているが、基本は独りの作業。バッグ以外にパンツやスカートも販売するが、それも地元トロントの小さな工場に発注する。小さいままでいることに価値があるという。
アナイス 好きな手作りで生計を立てられる私はとても幸運です。大きなビジネスを管理するのは好きじゃないし、ビジネスを大きくしたくもない。大きくすれば雇用も教育も品質管理も請求も気にしなくちゃならない。自分を表現できる規模に留めておきたいの。
――CMWC(メッセンジャー世界選手権)のエントリーリストにお名前があります。今年もメッセンジャー世界大会に出場されるのですか?
アナイス たとえ行かなくても、サムと私は毎年エントリーしています。彼は時々出場しますが、それはメッセンジャー・コミュニティを支えるために大切なことですね。
なぜ若者はメッセンジャーになるのか? 自転車さえあれば今日から働ける自由さゆえだろう。自転車文化の担い手という気概も持てるからだろう。
だが自由の代償は小さくない。請負の自営業というあいまいな労働契約。東京都心部でも年収200万円台、地方都市では100万円台という。自転車だから自賠責保険もなければ、医療も年金も自己責任。自転車自体はもちろんパンクしても自費だ。平均勤続年数は2年に満たず、会社の幹部にならなければ永遠にその境遇だという。
それでもお金を貯めてCMWCに行く日本人サイクリストも多い。アナイスさんは彼らを支えるため、2008年6月トロントでのCMWCでスポンサー協賛もする。
――夢は何でしょうか?
アナイス 好きなモノ作りで過ごすことね。リラックスして自然と調和して暮らせれば環境にも良いの。あと、助け合うことを大切にしたい。メッセンジャーのコミュニティは私をとても支援してくれています。だからできることで恩返ししたいの。
もう一度under the weatherのロゴを見よう。厳しい気候を傘の下で助け合いことを象徴する。自転車の乗り手と用品の製作者。1人対1人。立場は違っても自由を持続させるために助け合う。アナイスさんは、世界でたった1つしかないバッグという個性で、自由を支援している。
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