“本格的な”ライダーシューズを作ろうとすると、ライダーのヒアリングから始める。機能性、防水性、重さ、履き心地……チェックリストを作る。先行商品も買って分解する。前より良いモノはできる。だがそれでは、商品は皆同じカタチになってしまう。
データを集めて比べるだけのリサーチでは、同質化競争の波間に埋もれるだけだ。マーケティング・リサーチとは視野を広げる広角レンズの機能はあっても、焦点を絞る機能はない。では絞る機能とは何だろうか?
それは自分自身。喜佐さんは“自分が楽しい”ことに徹底的にこだわった。自分が楽しいのは何かを感じようとした。商品づくりとは自分の表現したいことを知り抜くこと。自分自身を徹底的に知る作業なのだ。市場にアンテナを張るよりも、たくさんのエネルギーがいる。
マーケティングとは、CRM(顧客情報管理システム)でイベント施策を進捗管理することでもなければ、SFA(営業支援システム)で標準プロセスを作ることでもない。これらはマネジメント・ツールであって、マーケティングそのものではない。
“自分が何者かを知る”ことを支援し、“作り手・売り手の想い”と“お客さまの真ん中にあること”を翻訳する手段、それがマーケティングである。
「郷さんが言うから、探したらあったんですよ」邦雄さんは店の奥から皮のブーツを取り出してきた。喜佐さん自身が履いた乗馬靴だった。
株式会社キサに連絡をしたとき「生前履かれていた“乗馬靴”の胴型や関係した遺品がないものか」とぶしつけなお願いをした。あちこちお探しいただいたのだろう。現物に触れられるとは思わなかった。喜佐さんは小さな足だった(22cm)。これで日本だけでなく、ヨーロッパでも見せびらかすように誇らしく歩いた。
“22cmの乗馬靴”と“KISSA SPORT 長靴”、2つの靴の間に生まれた喜佐さんの“こんなシルエットの長靴が欲しい”という気持ちを、ずっと“私のマーケティング”としたい。
→その1:“under the weather”は、自転車メッセンジャーの自由の傘
→その2:イラストレーター・もんちほしの誕生(前編)/(後編)
→その3:私のマーケティング物語(シューズデザイナー高田喜佐さん・本記事)
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