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» 2008年06月19日 00時00分 公開

第2回 ファイナンスの全体像保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(6/7 ページ)

[保田隆明,Business Media 誠]
JMA Management Center Inc.

株主にとっての価値とは

 貸借対照表の自己資本の部分を純資産、または解散価値と呼ぶことがあります。その言葉だけを聞いてもわかりづらいですが、貸借対照表の図(35ページ図10)を見ると、左側の資産を全て換金し、右上の負債を支払った残りが会社の解散時の価値になる、ということは理解できると思います。個人の場合も保有資産から借金などを払い終わった後の金額が実質的な相続資産となるのと同じことです。企業の場合はこの純資産、もしくは解散価値が全株主にとってのその企業の価値、ということになります。この価値が大きくなっていきそうだと思う人たちが株式を購入して株主となる、という構図です。

 また、最近は景気が回復してあまり聞かなくなりましたが、「債務超過の企業」というものも存在します。それは、図10の貸借対照表で左側の資産のハコよりも右上の負債のハコの方が大きくなり、自己資本が完全に消滅してしまっているケースです。資産を全て売却して借入金などの負債を返済してもまだ足りない状態です。債務超過になると倒産の二文字がちらつくようになり、取引先に信用不安が広がり、商売に支障をきたします。

 よって、各社ともこの状態になりそうなときは、株式を発行(増資)し、自己資本を増やします(増資に関しては後述します)。記憶に新しいところでは、三洋電機や日本航空が大規模な増資を行いました。

「時価総額」が意味するもの

 時価総額という言葉を聞いたことがあるかと思います。最近では企業の合併と買収(M&A)が盛んですが、企業を買収する際はこの時価総額が基準となります。2007年10月の時点で日本企業を時価総額ランキング順に並べると図13のようになります。

時価総額ランキング

 「時価総額=株価×株数」ですが、これは全ての株式を買い取るときの価値、すなわち全ての株主にとっての価値です。

 一方、これらの企業の純資産(解散価値)をそれぞれの企業の貸借対照表から拾って比較してみると図14のようになります。

各企業の純資産と時価総額

 時価総額も純資産も両方とも「全ての株主にとっての価値」ですが、なぜ数値が異なるのでしょうか。

 純資産は「今の時点で」会社が解散した場合の価値です。しかし、経営がうまく行っている企業がわざわざ解散する必要性はありません。今後も順調に業績を拡大し、この純資産を拡大していくことを株主は望むでしょう。

 そこで、株主は企業が今後も順調に利益を稼いで、今の解散価値よりも株主価値が高まる、と判断した場合に株式を購入します。そして株価(つまりは時価総額)は上昇していくのです。時価総額と純資産を比べると、株価が解散価値に比べてどの程度高く評価されているのかがわかります。それがPBRという倍率で、時価総額を純資産で割ったものです。このPBRという用語は聞いたことがある人も多いかと思いますが、この数値が高いほど株式市場から評価されていると言えます。

 なお、このPBRの倍率が1倍を下回る状況について少し考えてみてください。時価総額が解散価値を下回る状況です。これは、全ての株式を今の株価で市場より買い取ってしまい、直後に会社に解散してもらうと「お釣りがくる」ことを意味します。株主にとっては企業に引き続き事業を続けてもらうよりは、今すぐ解散してもらい、純資産を株主に分配する方が利益が出る、というわけです。株式市場が企業の経営戦略を評価しない場合はこうした「PBR1倍割れ」を起こすことがあります。

 一部の投資家はこういう状態の株式を「割安・お買い得」と考えます。PBRが1倍割れの状態で株式を購入し、後に経営陣が変わって有効な経営戦略が打たれるのを待つのです。よりよい経営戦略が導入されれば市場からの評価が変わって株価が上がってくるので、それを狙って先に投資をしておく、という考え方です。中には経営陣が変わるのを待つだけでなく、投資家自ら経営陣の交代を要求したり、新しい経営戦略を自ら提案したりすることもあります。

 少し前に話題を集めた「村上ファンド」などはその代表です。よく株式投資の本などで、「PBR1倍以下は狙い目!」なんて書いてありますが、これでその背景をご理解いただけると思います。

PBR平均値

 図15は東証1部に上場する企業の平均PBRの推移を表したものですが、過去1年間でその数値は低下しています。これは日本の株式市場の低迷ぶりを反映してのことです。通常の状態ではPBRは2倍程度となっています。株価が下がってPBRが1倍割れの企業が半数に達した2008年1月には、「理論的には日本企業の株価は割安」という論調も多くみられました。ただ、株価の基準となるのはPBRだけではないので、PBR1倍割れという状況だけを指して割安、と断定することはできません。株価を決めるほかの要因に関しては後述します。

 なお、実際に資産を全て換金するには膨大な時間と手間がかかりますので、PBRが1倍を下回っているからといって解散を選択する企業はほとんどありません。実際に解散してしまうと、従業員、取引先など社会的に与えるインパクトも小さくありません。解散は、そう簡単に行える行為ではないのです。

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