ところで、個人向けの金融商品に散発的に応用されているだけなら、金融工学もそう恐れることはないが、昨年来世界的に猛威をふるっているサブプライムローン問題の発生にも金融工学が深く関わっている。
サブプライムローン問題は、住宅ローンを加工して証券化した商品が住宅価格の下落から想定外の値下がりをしたことがもともとの原因だ。住宅ローンの証券化商品は、各種の金融商品の中でも群を抜いて数学的に複雑で、ごく一部の専門家しか価格やリスクを評価することができない。しかも彼らの理解も、不安定な前提条件に仮定を重ねて、やっと具体的な数値が計算できるという代物に過ぎない。
しかし金融工学の専門家というよりは、その取り巻きである金融マンたちが、こうした複雑な証券化商品の価格計算やリスク管理が「できていることにして」、イケイケどんどんと商売を拡大し、これに伴う報酬(ボーナス!)を取り逃げしてしまったなれの果てがサブプライムローン問題なのだ。
金融工学それ自体は別段悪いものではない。だがサブプライムローン問題にあっては、怪しいリスクの拡大に対して迷彩を施す「有り難いブラック・ボックス」の役割を果たしている。誰か特定の個人が悪いわけではないのだが、金融工学は、米国を中心にした金融マンたちの半分無意識的な集団詐欺のようなものの片棒を担がされた構図になっている。
ところで、外資系の証券会社で典型的にあるような成功報酬のシステムは、経済的な性質として「オプション」の一種だ。詳しくは別の機会に説明するが、このオプションを巧みに使って、お金の出し手(例えば投資銀行の株主までがカモだ!)から、リスクの形で富を盗み出す手口が確立している。
世界一リスキーな金融商品は、金融マン(金融機関のCEOも含めて)に与えられた成功報酬ボーナスであると自信を持って断言できる。
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