向谷実氏が考える鉄道と音楽(後編)――発車メロディというビジネス近距離交通特集(2/5 ページ)

» 2009年02月07日 09時40分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

発車メロディを手掛けた理由

 そもそも、なぜ向谷さんは九州新幹線や京阪電鉄の発車メロディを手がけたのだろうか。「京阪電車発車メロディコレクション」のライナーノートには「子供の頃から発車メロディを作ってみたかった」とあるが……。

 「きっかけは、僕が作っている『トレインシミュレータ』という列車運転ゲームです。このゲームの制作で、たくさんの鉄道会社とお付き合いができて、そこで出た話がきっかけになりました」

 向谷氏の鉄道好きはカシオペアで活躍した時代から知られており、インターネットが普及する前、パソコン通信時代のニフティサーブでも実名で鉄道フォーラムの掲示板に書き込みをしていたほど。そんな彼が、アップルのコンピュータ Macintoshを使い始めたとき、鉄道ゲームのアイデアがひらめいた。

 「電車の運転台側の映像を撮って簡易再生すればシミュレータになるなあ、というアイデアで、1995年に「トレインシミュレータ」というゲームソフトを出しました。それがとても売れたんですよ。その時からカシオペアの活動の傍らでPC版のトレインシミュレータをシリーズ化していきました」

 この作品に注目した会社が2つあった。1つはソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)。もう1つはJR九州商事だった。向谷氏はプレイステーション2で2タイトルの鉄道シミュレータを制作した。メディアがDVDになり、画質は格段に向上した。信号機の表示を動画に組み込むことでリアルな運転ができるようになった。これを見て、JR九州商事が関心を持った。JR九州商事は九州新幹線の開業に合わせて、プロモーションを企画していた。そこで向谷氏は「トレインシミュレータ九州新幹線編」を作った。

 「JR九州の偉い人が、九州新幹線の発車メロディのサンプルを聴かせてくれたんですよ。たぶん、発車メロディの設備メーカーさんのサンプル音源だと思います。『この音じゃ、寂しいよねぇ』とおっしゃった。これは千載一遇のチャンスだと思って、その日、東京に戻ってすぐに作曲して、『私だったらこうする』ってメールで送ったんです。それを先方が気に入ってくださった。それから何度か修正をして、さらに発車メロディ、車内放送などの音源を作らせて頂きました。この発車メロディには『風は南から』というタイトルがあるんです。今でも九州新幹線に乗る時にこの曲が流れると、『ああ気持ちいいなあ』と思います(笑)」

京阪電鉄の“つなぐと1曲になる発車メロディ”

 京阪電鉄の場合は新しい運行管理システムに更新するため、そこで使用する自動放送システムに使う発車メロディを向谷氏に依頼した。発車メロディの稼働は2007年の6月。それぞれのメロディをつなぐと1曲になるという仕掛けは鉄道ファンの間で話題となった。CD化されたのは2008年11月だ。CD化が発車メロディの稼働から1年以上もあとになった理由は、当時は工事中だった中之島線用に作曲した発車メロディを収録するためだった(中之島線は2008年10月に開業)。京阪電鉄は日本の鉄道で初めて発車メロディを使った会社だという。

 「発車メロディを作る時に、(列車の)種別ごとにメロディを変える、つないで1曲にするといった企画があったんですね。中之島線を開業する時も、ライブをやろうとか、CDを出そうとか、いろいろ提案があったんです。その中に“発車メロディとして完結したものをモチーフとして、さらに発展させよう”というアイデアがあった。ジャズっぽい曲、ロックっぽい曲にしていく――これは僕にとって挑戦でした。うまくいってよかった(笑)。僕が作曲した発車メロディは九州新幹線が最初で、京阪が2回目です」

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