遺品整理人が語る、孤独死の現実――キーパーズ 吉田太一社長あなたの隣のプロフェッショナル(2/5 ページ)

» 2009年05月23日 11時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

孤独死の壮絶現場

 近所の人々の「異臭がする」というクレームによって発見されることが多い孤独死。季節によってそのスピードは異なるが、死後1カ月とか2カ月ともなると、遺体は腐敗が進み、遺体の内外には無数のうじ虫やゴキブリがはい回り、死臭の充満した室内にはハエがぶんぶん飛び、遺体の形に沿って、床に染みができる。

 自殺もあれば、徐々に衰弱しての孤独死もあるが、いずれにしても、その現場は、息をのむような凄惨さであり、到底、正視に耐えるものではない。変死の場合は、当然、警察も出動することになるが、同時に大家は家族に連絡し、とにもかくにも来てもらい、その後の処置を依頼するのが普通だ。

人形(ひとがた)

 しかし……上記のような惨状を目の当たりにして、「はい、承知しました!」と言って遺品を整理し、部屋を綺麗にできる一般人が果たしてどれだけいるだろうか?

 そこで登場するのは、吉田さんの会社である。近所からは「臭くて生活できない」といった苦情が殺到し、不動産としての価値も低落する一方ということで、大家からも督促される中、一刻も早く原状回復を図らなくてはいけない。

 吉田さんの通常の仕事の流れは、簡略化して述べると次のようになる。

1.無料で見積もりに訪問

2.遺品の仕分けとこん包

3.遺品を屋外に搬出

4.室内掃除(消毒、消臭など含む)

5.形見分けの品を配送

 そして、故人が使用していた布団、衣類、人形などに関して、寺院から僧侶を迎え、吉田さんの会社で供養することも大事な業務となっている。実際、筆者がうかがった当日も、倉庫に「供養を待つ人形」がたくさん並べられており、その強烈な視線の束に耐えられないような気分になったものである。

供養を待つ人形

人間本来の機能を失った現代のビジネスパーソンは危ない

 オプショナルなサービスは、もちろん多々あるが、一般的には、以上のような作業でおおむね終了だ。しかし、中には、そう簡単にことが運ばないケースもあるという。

「ご遺族が相続を拒否して、契約を解約されることもあるんです」

 孤独死を余儀なくされる人というのは、既に述べたように社会と没交渉になった人が多いわけで、当然、家族との関係もかんばしくないケースが少なくない。そのため、「死んでまで迷惑をかけられてはたまらない」という家族感情を引き起こしやすく、後処理を拒否することにつながるのだ。

 そうなると困るのは、大家であり近隣の住民であろう。吉田さんは、これまでそうした現場にいくどとなく遭遇してきたという。「最近では、相続放棄という言葉が一般化したこともあって、親族が『死』を放棄するケースが多いのは困ったことです。しかしその一方で、大家さんたちも住民の異臭騒ぎで初めて気付くというようなことではなくて、もっと普段からいろいろとサービスを考えて、そういう事態にならないようなやり方で、人を住まわせる努力をするべきだと思います」

 数々の修羅場をかいくぐってきた上での意見だけに説得力がある。

 「現在、依頼の比率は都内40%、名古屋と大阪が各25%、福岡が10%くらいでしょうか。90%以上が独居者で、内70〜80%が男性、それもサラリーマンの負け組が多いです。彼らは企業に自らを適応させていく中で、人間本来の機能を退化させてしまっています。会社に依存する体質になってしまっていて、人生の夢とか希望のレベル、目線がとても低くなっていると感じます。そうした人々がリストラや倒産などで寄るべを失った時の転落はあっという間です」

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