これまで数百数千の孤独死の凄惨な現場を見てきた吉田さんは、今、新たな活動に力を入れている。
「自分の商売と矛盾するようですが、死んでまで世間に迷惑をかけることがなくなるように、孤独死を減らしたいと思っているんですよ」
『独居老人の孤独死』というアニメDVDを制作し、希望者に無料配布している。内容的には、本稿の中で述べてきたような孤独死へのプロセスと、それがもたらす災厄が表現されている。これは行政でも資料として活用しているほか、欧米からも引き合いがあり、実際、諸外国で使われているという。
「このDVDを見た方がショックを受けて、自主的に孤独死を避けようという気持ちになり、10%でもいいから減れば良いと思っています。経済効果という観点から見ても、数十億円レベルの効果があるでしょう。それほどまでに、孤独死によって不動産価値は下がっているのが現状です」
彼はそれに加えて『エンディングノート』を作成した。自分のプロフィールや、いざという時の、介護・看病についての希望、尊厳死・延命治療・脳死・ホスピスケア・病名告知・献体についての考え方、葬儀・法事・遺品整理などについての希望などを記入するようになっている。1万部印刷し、無料配布したところ、あっという間に完配して増刷したという。
こうしたノートに自ら書き込むという行為、それは誰かに読んでもらいたいという意識につながり、そして結果的に社会とのつながりを自ら求めることとなり、孤独死を減らすことにも直結していくのだろう。
遺品整理業は、一見、死の事後処理の仕事という風に見えやすい。しかし、吉田さんを見ている限り、いかに個々の人間の生を充実させるかという点にこそ、彼の本当の使命感があるように感じられる。
吉田さんには、常に心がけていることがあるという。
「それは世の中のスタンダードを正しく見極めて、人とは違った視点からビジネスを考える、ということです」
すなわち、まず大前提として、一般の顧客(生活者)の気持ちを皮膚感覚で理解していないといけない。それを踏まえて、しかしビジネスをやる以上は、吉田さん「独自」の、他社のいかなるサービスとも「異質」で、これまで存在しなかったような「新規」な視点からサービスを構築する必要があるということである。それゆえに、吉田さんはスタッフや友人・知人に対して、最近の自分自身が調子に乗って、感覚にズレが生じていないか頻繁に聞くようにしているという。
ビジネスの今後の展望はどのようなものだろうか?
「アメリカ映画で『ザ・クリーナー』という特殊清掃の会社を描いた作品がありましたが、是非、今年の内に渡米して、現地の企業を見てきたいと思っています。そして、使用薬剤などの面で、業務提携ができればいいなあと思っているんです。また、始まったばかりですが、韓国での事業展開も地元業者と共同で開発中です」
今回の取材を通じて痛感したこと――それは、いささか逆説的かもしれないが、吉田さんのビジネスが発展することで、世の中において孤独死防止の様々な取り組みが活発化するのではないかということ。その結果、孤独死を迎える人の数が減ること、それが吉田さんの願いであり、孤独死予備軍の有力候補の1人として筆者もその思いに共感を禁じえない。
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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