漆氏は、それぞれの理由について、次のような工夫で乗り越えていったそうです。
外部から見たらどんなに厳しい状況なのか実感してもらうため、外の人に会いに行く時、同僚たちにも同行してもらいました。
学内の様々な改革プロジェクトチームにおいて、漆氏が「私が責任を取るから!」と、いわば皆の「風除け」になることを明言しました。
できない理由を挙げる人は、漆氏とは「違う絵」を見ていた。漆氏は改革がうまくいった時に、生徒が喜んでいる「ゴール」のイメージを描いていたのに対し、動かない人たちは、そのプロセスで遭遇するであろう、さまざまなトラブルや障害をイメージしていました。つまり、人によって、ゴールorプロセス、あるいは成果orリスクのどちらか一方しか見ていないことがあるということです。
そこで、漆氏は相手の見ている絵がどんなものかを聞き、一方、漆氏は自分が見ている絵がどんなものかを相手に伝えました。こうして、お互いの見ている絵を交換することで、改革に対する理解と行動を促したのです。
わずか5分でもいい、改革に関わる簡単な仕事を頼み込んでやってもらいました。そうすると視点が変わり、主体者意識が出てきます。こっち側に一度でも連れてくれば、漆氏は嫌いな対立者ではなく、同じ改革に取り組む仲間になれます。
こうして、漆氏は、周囲を巻き込みながら、できることから改革を進めていったのだそうです。それにしても、「協力はするが賛成はしない」って、何なんですかねぇ……そこまでして責任から逃げたがるというのはなんとも情けないですよね。
ただ、結局のところ、「生徒たちが喜ぶ姿を見たい」というゴールイメージが先生たちを動かす、最も大きな原動力になったようです。教師をやる動機や充足感、すなわち漆氏の言う「心にスイッチが入る瞬間」は、生徒たちの笑顔にあるからなのだそうです。(松尾順)
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