「返本率4割」打開の一手なるか 中堅出版8社、新販売制「35ブックス」

» 2009年07月06日 20時48分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 6日に都内で開かれた会見には、8社の代表者が列席。立って話しているのが筑摩書房の菊池明郎社長

 「出版業界や書店が閉塞している。返本率が4割を超え、高止まりしている状況を打開したい」(筑摩書房の菊池明郎社長)――筑摩書房や中央公論新社など中堅出版8社は7月6日、書籍の新販売制度「35(さんご)ブックス」を、共同で始めると発表した。

 書籍は通常、「委託販売制」で販売されており、書店のマージン(定価に占める取り分)は22〜23%程度。売れなければ、仕入れ価格と同額で返品できる。

 これに対して35ブックスは、書店のマージンを35%と高めに設定する一方で、返本時の引き取り価格を35%に下げる仕組み。「責任販売制」と呼ばれるシステムで、取り次ぎにも協力を得て実現した。書店の利益アップと出版社の返本リスク低下、取り次ぎの業務効率化が狙いだ。

 筑摩書房が中心となり、河出書房、青弓社、中央公論新社、二玄社、早川書房、平凡社、ポット出版が、復刊書籍を中心に、計26タイトル・47冊(セット販売含む)を提供。7月6日に書店からの受注受け付けを始め、11月上旬から配本する。

業界の「悲鳴」に応えたい

 従来の委託販売制は、出版社は多様な書籍を出版し、書店は売れ残りリスクを気にせず店頭に本を並べることができた。だが出版不況で書籍の売り上げが減る一方、出版点数は増加して返本率が上昇。大量仕入れ・大量返品が、書店や取り次ぎ、出版社の利益を圧迫し、出版不況が深刻化している。

 事態の打開に向け、小学館は昨年から、書店のマージンを35%程度に上げ、返本時の引き取り価格を下げる責任販売制を運用し、実績を上げているという。講談社も今年、責任販売制を一部の書籍で導入する計画を明らかにしている。

 35ブックスは、中堅出版社が、大手2社にならって企画した取り組み。「書店のマージンが低く、廃業する書店も多いなど悲鳴が届いている。この閉塞状況を何とか打開したい」と、筑摩書房の菊池社長が1月に提案し、計画を詰めてきた。参加している8社に加え、10社前後が賛同しているという。

 まずは、「南方熊楠コレクション」(全5巻・6600円、河出書房新社)、「昭和二十年東京地図」(3400円、筑摩書房)、「顔真卿字典」(5600円、二玄社)など高価格帯で書店の利益の厚い復刊書籍を中心にラインアップする。

 事前注文に応じて復刊・増刷し、注文した書店に優先して配本するため、出版社は売れ残りリスクを低減でき、中小書店でも部数を確保しやすいという。「書店のインセンティブを高めつつ出版社のリスクを下げ、ビジネスチャンスを広げたい」(菊池社長)

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