「コイケ先生」こと阿部サダヲは、誰に語りかけているの?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2009年09月28日 09時56分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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コイケ先生は誰に向かって訴えているのか

 スナック業界で考えれば、リーダー企業は「カルビー」であろう。板橋区、北区と同じく東京の城北地区に本拠を置く両社であるが、両社の売上げ規模はケタが1つ違う。矢野経済研究所が発表した2007年度の企業別シェア、スナック菓子部門では、カルビーが47.5%、続く湖池屋は11.3%となっている。

 湖池屋の戦いは、即ちカルビーとの戦いでもある。コンビニやスーパーの棚では常に両社の商品が競うように並べられる。特にコンビニなどの狭小店舗では、うっかりすると棚自体を失いかねない。そのため、チャレンジャーらしく商品でも、CMでも常にユニークさを前面に出して差別化戦略を徹底しているのだ。

 では、「コイケ先生」もカルビーとの戦いのために展開しているのか。店舗の棚を見ると実はそうではないことに気がつく。

 今日、コンビニやスーパーの棚を席巻しているのはプライベートブランド(PB)商品である。安さを武器に棚を我が物顔で占領し、湖池屋の商品は隅に追いやられている。まさしく、敵はPB商品なのである。

 PB商品対抗のために、「コイケ先生」は消費者にアピールしているのかといえば、実はそれだけでもない。カルビーに比べて二番手メーカーである湖池屋は、うっかりすると本当に店舗の棚から追いやられる危機に瀕している。では、棚を失わないためにはどうしたらいいのか。もちろん消費者が購入してくれることは重要だが、そのためにもまず、棚に並ばねばならない。まずは、小売業者のマーチャンダイザー(MD)が発注してくれることが必須である。また、コンビニであれば、チェーンのMDが仕入れた商品一覧が並ぶ仕入れ端末に表示された画面から、さらに店主に選ばれなければならない。

 2009年4月12日付の日経MJに掲載された記事「ヒット分析バイヤー調査」によると、スナック菓子の仕入れを判断する基準の1位は「味」で、2位は「テレビCMなどの広告・宣伝」となっている。

 MDもCM展開している商品であれば、消費者からの支持もあると考え発注する気になるだろう。店主もついつい、発注画面をポチッと押す気になるだろう。しかし、「ポテトチップス」自体は定番商品なので、ブームを作って大量に仕入れてもらえるようなことはない。消費者に安定して好感を与え、チャネル関係者の記憶にもネチっこく残って、常に発注してもらえるような効果がCMにも求められる。そこで「コイケ先生」シリーズの出番なのだ。

 CM対象になっているポテトチップスのラインアップにも工夫している。独特の味が人気の「マヨポテト」でシリーズが始まった。続いて2作品は定番の「うす塩」を取り上げたが、それ以降は独特のカットを施した「リッチカット」、湖池屋ポテチの真骨頂である「のり塩」、最新のCMは「リッチコンソメ」などを取り上げている。

 PB商品のフレーバーはほとんどが「うす塩」か、一部で「しょう油」があるぐらいである。つまり、PB商品にないフレーバーを中心にアピールしてチャネルの棚を確保しようという配慮が伺える。

 「CM」と聞くと、「消費者」へ向けてのメッセージと一元的に捉えがちだが、阿部サダヲ扮する「コイケ先生」は流通関係者にも語りかけているのだ。PB 商品対抗のため、チャネルプロモーションの重要性はどんどん増している。それは、CMの有り様まで変えていっているのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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