セミナー講師VS. 学生――セールストークの現場を見た(1/2 ページ)

» 2009年10月16日 08時00分 公開
[伊藤達夫,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:伊藤達夫(いとう・たつお)

THOUGHT&INSIGHT株式会社代表取締役、東京大学文学部卒、認定エグゼクティブ・コーチ(JIPCC)。コンサルティング会社にて食品、飲料、化学品メーカーなどのマーケティング寄りのプロジェクト、官公庁などのプロジェクトに携わる。その後、JASDAQ上場の事業会社に移り、グループ戦略、事業戦略、業務改革などに携わる。結果的に最年少でのマーケティング部門、部門長となる。ブログ「ゆるーいコンサルタントな日々


 先日、セミナービジネスが本業の会社のセミナーに行ってきたのですが、非常に面白い質問がありました。そのセミナーは見込み客集めの意味合いで受講料が5000円だったのですが、そのセカンドステップのセミナーは20万円ぐらいでした。ここで、学生さんが質問で「(セカンドステップのセミナー受講料は)高すぎるのでは?」とみんなの前で言ってしまったので、さあ大変という状況になりました。

 会場には500人ぐらいいたでしょうか? 私はそういう見込み客集めの意味合いのセミナーに行くと、どういう布石の打ち方をしているのかな、という目線で見ます。5000円のセミナーではもうからないですからね。必ずセカンドステップがあります。その告知も当然あります。

 で、実際には、そのセカンドステップ20万円の受講をしたほうがいいという布石をずっと打ち続けるようなセミナーでした。それで、セミナーも終盤に差し掛かり、これぐらいやれば、けっこうコンバージョン(セカンドステップのセミナーを受講する比率)が高いだろうなあ、と思って聞いていたところで、学生さんが「そのセカンドステップのセミナーに行きたいけど、いくらなんでも高すぎます!」と言ってしまった。

 これ、セミナー主催者側からすれば、最悪の発言です。なぜなら、高すぎるという印象を500人の参加者に与えてしまう恐れがあるからですね。参加者側を代表して、私が交渉するなら「高すぎる」と言いますよ、そりゃね。ただ、彼は純粋にそう思って言ったところが、またタチが悪いと思いましたが……。

 で、講師の方はどうしたか?

 叩き潰しに来ました。そりゃ、「価格が高いという印象」は不買理由になりますからね。その芽をつんでおかないと、500人も集客した意味が全くないわけです。まず、価格が問題となった時に、王道の質問をしました。「何と比べて高いとお思いですか?」と。

 セミナーのようなカスタム商品は、「価格を何と比べていいか?」という基準があまりないですよね。例えば、メジャーリーグ選手のイチローとご飯を食べられる権利は、いくらか分かりませんよね。イチローのレッスンを受けられる権利もいくらか分かりません。

 セミナーのグル、親玉を祭り上げることで、価格の価値を高く見せるのはセミナービジネスでは常識です。価格の基準値がよく分からないビジネスで、価格が正当であるかのように見せるために、その見込み客を集める5000円のセミナーがあるのです。

 で、学生さんがその時間で主催者側が築き上げたものを打ち砕く「高い!」という主張をしてしまったから、講師の方は、容赦なく、セールストークの伝家の宝刀を抜いたんですね。でも、その学生さんは、さらに上を行きました。私はこのトークが崩されたのを初めて目の当たりにしました。

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