3度目の正直なるか? カフェ市場に切り込むマクドナルドそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2009年11月09日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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カフェ市場はマックに席巻されるのか

 意気込みは、原田泳幸CEOのコメントからうかがえる。「やるからにはトップを目指す。価格は他社と比べても一番お得であり、マクドナルドの店舗数の多さ、24時間営業などの利点を考えると、(カフェ市場で)一番をとれない理由はない」(東京ウォーカー)という。

 取り扱い店舗も、年内には都内260店舗前後、2010年内には全国1000店舗の展開を目指す(同)というから、完全制圧に向けたチャネルの面展開も急ピッチで進む。新業態店をチマチマ出店していた状況とは意気込みが違う。

 1000店という規模は、チェーン展開カフェ市場の約2割に上る店舗が市場に突如出現したのと同じだ。ほかの例で考えるなら、セブンアンドワイがコンビニ店舗にATMを設置してATM市場を制圧したのと同じだ。流通網やチャネルを活用した「経営シナジー」を発揮した展開である。

 プロモーションにも注力している。「マクドナルドがカフェメニューを開始 試飲キャンペーンに800人行列」(J-CAST)という記事も掲載されていた。

 無料コーヒーで今までマクドナルドに来店しなかったカフェ客を呼び込むのは、もはやお手の物だ。マックの無料コーヒーに慣れてきた消費者も、「何かほかのメニューも頼まなきゃいけないのかな……」という躊躇(ちゅうちょ)もなく、新メニューを試しに行ったことだろう。

 渾身の新商品(Product)、日本全国を完全制圧する面展開のチャネル(Place)、800人を集客する無料試飲キャンペーン(Promotion)とくれば、最後に残されたマーケティングの4Pの1つ、価格(Price)が気になる。

 決め手はもちろん、マクドナルドならではの“お手ごろ価格”。一番安い「カフェラテ」のSサイズが190円、高い「カフェモカ」のMサイズが300円とリーズナブルな価格に抑え、200円台後半〜400円台がメインのカフェチェーン店との差別化をはかったと、東京ウォーカーは分析している。

 しかし、「差別化を図った」という割には、2〜3割安いというレベルに留まっている。新製品で一気に市場のシェアを取ろうと思った時には、「ペネトレーション・プライシング」という価格戦略を取るのが基本だ。場合によっては収支トントンも辞さず、競合が真似できない圧倒的な低価格を設定。シェアを取ったら規模の経済と経験効果で原価低減を図って収益を出す。

 そう考えると、競合比2〜3割安はまだまだ、圧倒的なコスト・リーダーのマクドナルドなら下げ余地はあるように思う。なぜもっと低価格に設定しなかったのか。筆者は、すぐに値下げをするのではないかと予測する。

 前例がある。今年3月に販売開始して人気メニューとなった「マックホットドッグクラシック」。発売した月内にすぐに220円を190円に30円値下げ、2個まとめて買うと330円(1つ165円。55円引き)という価格改定を行ったのである。今回のマックカフェメニューで再びそのような展開を狙っているのではないだろうか。

 マクドナルドの事業ドメインは、あくまで「ハンバーガーファストフード事業」である。その事業ドメインでは絶対に負けないリーダー企業だ。「カフェ」は本来のドメインではない。だが、消費者の財布のひもが固くなった昨今の経済情勢と重ね合わせて、今回の展開を見ると、マクドナルドはそこでもリーダー企業となるような気がしてならない。既存のカフェ市場のプレイヤーは戦々恐々だろう。

 ちなみに、筆者はかたくなにスタバ派である。ひと言いいたい。マクドナルドは、おいしいものを安く、便利に提供してくれる。確かに財布には優しい。その企業努力も素晴らしい。けれど考えてみてほしい。体力のないコーヒーチェーンが次々と倒れていった時、私たちの社会は、果たしてそれで豊かになったといえるのだろうか。利便性を選ぶか。選択肢の多様性を選ぶか。それを決めるのは、究極的には、消費者1人1人。私たち自身なのだろう。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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