全9回でお送りする、ジャーナリスト・上杉隆氏とノンフィクションライター・窪田順生氏の対談連載6回目。役人はこれまで数多くの“ウソ”をついてきたが、なぜ記者はそれを見破ることができなかったのだろうか。その理由について、2人は語り合った。
→“ジャーナリズムごっこ”はまだ続く? 扉を開かないメディア界(3)
→取材現場では何が起きているのか? 新聞記者と雑誌記者に違い(5)
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして活躍するほか、企業の報道対策アドバイザーも務める。
『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術 』(講談社α文庫)がある。
窪田 記者クラブに詰めている記者にとって、この世で信頼できる情報というのは役人が「話した言葉」や「ペーパー」だけ。だから彼らにとって、記者クラブはあった方が便利なんですよね。
上杉 役人が言ったことが「正しい」という前提に立っていることが、オカシイ。なぜ役人が言っていることは常に正しいと思い込んでいるのだろうか。
記者であれば自分なりに分析して、記事を書くのが仕事。なのに役人からの情報になると、100%正しいと思い込むのはどうかと。通信社の記者であればいいかもしれませんが……。
役人が出した情報でも、あとになってウソがバレたというケースはたくさんあります。例えば年金であったり、薬害肝炎、薬害エイズなど――。そういう役人のウソに乗っかって、ずっとウソを報じてしまう。そしてさらにそのあとになって役人のウソがバレると、役人を攻撃する。記者クラブの記者というのは常識の範囲では理解できない人たちですね。
仮に、官僚がウソをついているのを分かっていてあえてそのように報じているのなら、たいしたタマかもしれません。でも 役人のウソが分かっていないとしたらただの愚鈍。
いずれにしろ、記者クラブの人たちは役人に洗脳されているんですよ。そして怖いことは、新聞やテレビといったメディアは正しくて、雑誌はダメと思い込んでいる国民も同じです。なのでいまの日本は“1億総洗脳化状態”に陥り、国民全員がおかしくなっているといってもいいでしょう。
窪田 僕も記者クラブで仕事をしていたとき、1つくらいはいいところを見つけようとしたんです。しかしないんですよ。
上杉 記者クラブ制度は、役人や政治家のためには良い制度なんです。しかし国民のためにいいことがあるかといえば……ゼロですね。
窪田 あと取材をしたくないという記者にとって、記者クラブはとても居心地のよいシステム。例えば記者クラブでボーッとしていても、誰からも批判されない。席にいれば広報の人がリリースを持ってきて、それを見て書く。昼になれば県の食堂でメシを食って、そして関係部署を回って……といった感じ。とても楽なので、記者の方から記者クラブを変えようとする動きが出るはずもない。
上杉 主要メディアで働くすべての記者は記者クラブでの経験があります。なので記者クラブがなくなればどうなるか、ということが想像できないと思いますね。
実は答えは簡単で、取材に行けばいいだけのこと(笑)。外にでれば楽しい仕事が待っているのに、なぜ自ら妨害しているのか、理解できないですね。
窪田 またメディアを就職先に選ぶ、学生側にも問題があるのかもしれません。就職活動の際に、第一志望が三菱東京UFJ銀行、第二志望が朝日新聞、第三志望が電通といったような人が、新聞社に就職してもいきなり「取材しろ!」と言われても難しいかも。いきなり夜討ち・朝駆けをすれば「こんな大変な仕事はできません」という人も多いのではないでしょうか。
例えば朝日新聞の新人記者は東京大学を卒業し、「学生時代には囲碁部で主将やってました」といったタイプが多かった。ある新卒の記者からこのようなことを言われました。「窪田さんは桶川ストーカー事件※を取材していたんですよね。鳥越俊太郎さんのスクープはすごかったですよね」と。
上杉 鳥越さんじゃないから(笑)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング