窪田 その新人記者に「鳥越さんではなく、フォーカスの清水記者のスクープだから。君……『フォーカス』っていう雑誌、知らない?」って聞いたところ「僕はそういう類の雑誌は読まないですから。僕は鳥越さんの本を読んで、ジャーナリストになりたいと思ったんです」と言っていましたね。
上杉 鳥越さんはジャーナリストでもなく、コメンテーターだから(笑)。
窪田 一般企業に入った方がいい学生を、新聞社に入れるようなシステムを作り上げたことが問題なのでしょうね。
上杉 そういう学生が記者になれば、役人もコントロールしやすいはず。優等生はあまり疑うことを知らないわけだから。例えば自分の先輩である東大卒の人が、「ウソの情報なんて流すはずがない」といった感じで信じ込んでしまう。
しかし私のように性格の悪い人間だと、役所からペーパーをもらっても「こいつウソをつきやがって」と、まず疑ってかかりますから。
窪田 記者も役人と飲みに行くことがありますが、役人は記者を操ろう・操ろうと考えています。しかしチカラのない記者は「オレをだますはずはない」と思い込んでいて、その場で情報をもらって、そのまま記事に書いてしまう。自分がスピン(情報操作)されていることに、気づいていないのでしょうね。
上杉 キャリアだけではなく、ノンキャリの役人でも同じですよ。いい大学を卒業した記者に「やっぱり記者さんは優秀ですよね。かないませんよ」などといいながら、腹の中では「バーカ」と思っている(笑)。
窪田 自分の息子と同じような年齢の記者に、ヘコヘコするわけがない。普通に考えれば分かるはずなのに、当たり前のことを疑おうとしない。
上杉 役人の言っていることは信じているんだけど、ジャーナリストであれば逆の立場にいる人の声も聞かなければならない。殺人事件があれば警察が発表したことを書くのはいいが、被害者への取材も欠かしてはいけない。これは世界中のジャーナリズムの原則ですが、日本だけがしなくてもいい。
窪田 警察の広報担当者が「被害者はこんなことを言っている」といったことを発表すれば、新聞記者はそれをそのまま書いてしまう。なので事実の部分は、取材しなくてもいいわけなんですよね。
上杉 そもそも取材のスタート時点からして間違っています。役人はウソつかない、官僚はウソつかない、警察はウソつかない――といった感じで記者は洗脳されてしまっていますね。
1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。富士屋ホテル勤務、NHK報道局勤務、衆議院議員・鳩山邦夫の公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、2002年にフリージャーナリスト。同年「第8回雑誌ジャーナリズム賞企画賞」を受賞。
『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』(新潮社)、『小泉の勝利 メディアの敗北』(草思社)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など著書多数。
→“ジャーナリズムごっこ”はまだ続く? 扉を開かないメディア界(3)
→取材現場では何が起きているのか? 新聞記者と雑誌記者に違い(5)
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