「あとのときは若手記者を中継車に引きずり込み、大目玉を食らわせた」――。
過日、某民放局のベテランディレクターと話した際、こんな話を聞かされた。ベテランが言う大目玉とは以下のような出来事だ。
ある水害取材にこのディレクターと記者ら複数のクルーが急派された際のこと。東京を発ち、いち早く現地入りして取材を済ませたあと、あるとんでもないトラブルが起こったというのだ。この民放は空撮用ヘリで特製のウナ丼を空輸した。疲労がたまっているスタッフを気遣うために、局幹部が運ばせたのだという。だが、この“空飛ぶウナ丼”が思わぬ事態に発展したのだ。
折しも被災地周辺の幹線道路のいくつかは遮断されたまま。地域の体育館に着の身着のままでの避難を強いられた被災者には救援物資が届いていなかった状況だったのだ。
そんな最中、「空腹を訴える子どもの横で、若手記者が空輸されたウナ丼をガツガツ食べ始めてしまった」(先のベテランディレクター)というのだ。
この記者の行動はあまりにも配慮に欠ける行為として、他の被災者たちの怒りを買い、被災者全員が爆発寸前のところまで達してしまったのは言うまでもない。
もちろん、“空飛ぶウナ丼”のケースはごくまれだ。大目玉を食らった記者にしても、記者としての資質以前に、人間としてその品格が問われるだけの話だ。
ただ、先に記したように、強引に宿泊施設を押さえてしまうケースは後を絶たない。また、報道の使命である「伝える」ということに注力するあまり、肝心の被災者たちそっちのけで取材合戦が繰り返されているのは紛れもない事実だ。
筆者自身に災害取材の経験はないが、夜討ち朝駆けで取材対象者を追いかけ回す際は、近隣住民に対して最低限のモラルを持って臨んだ。ネット社会の進展とともに、ブログや掲示板を通じて記者の立ち振る舞いはあっという間に世間に知れ渡ってしまう。災害現場だけでなく、通常の取材でもメディア関係者は自らの姿勢を質す必要がある。
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