シェリーメイに大行列! ダッフィーを生かしたディズニーの巧みな戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年02月03日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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グッズから企業の置かれた状況を推測する

 2009年12月5日付週刊東洋経済の記事「特集 ディズニーの正体――独り勝ちゆえの悩み 次の成長戦略を描けるか」によると、オリエンタルランドはテーマパーク事業で独り勝ちの状態であるものの、利益率が低く、次の成長戦略が明確に打ち出せない限り、投資対象としては「まったく魅力がない」という。

 新たなテーマパークを構想したり、海外からの観光客を取り込んだりと、さまざまな打ち手があるが、どれも一筋縄ではいかないだろう。しかし、グッズ販売はそれほどコストもかけずにすむ。同記事によると、営業利益のうち、テーマパーク事業の構成比は実に86%(2009年3月期)といい、顧客1人当たりの平均売上高は9473円。そのうち商品売上高は3195円(2009年4〜9月期)と、およそ3分の1を占めるというから、売り上げ=客数×客単価という単純な図式で考えれば、人気グッズが登場すれば、全体の売り上げ、利益へのインパクトは非常に大きい。

 同一の商品の買い換え、もしくは買い増しを促進することを「アップセリング」という。かつて、デルコンピューターは4年間で3台PCを買わせるというプログラムを展開していたという。デスクトップを買う。しばらくすると、ノートPCの買い増しのお勧めが来る。その後しばらくすると、デスクトップの買い換えのお勧めが届く。

 とはいえ、そんなに簡単に買い増し・買い換えをしてくれるものではないが、ディズニーは易々とそれをやってのけた。ダッフィーとシェリーメイは別商品であるが、ファンでなければ同じクマのバリエーションにしか見えない。PCでのデスクトップとノートの違いくらいだ。ゆえに、これはアップセリングである。それも、とびきり勝率の高い。

 関連商品の販売を「クロスセリング」という。例えばヒューレット・パッカード(HP)ではPCのほかにプリンタも製造しているので、もれなくPCとの併買のお勧めがくる。

 ダッフィーのサイズ違い、キーホルダーなどはクロスセリングだ。自分のダッフィーに感情移入し、人格(クマ格?)を与えている熱心なファンは、同時に2体自分の周りに存在させようとはしない。ゆえに、関連商品としてバリエーション展開をしてクロスセリングを図っているのである。当然、シェリーメイもバリエーション展開があるはずだ。

 さらには、シェリーメイの登場によって、ダッフィーとペアの絵柄になった食器や各種グッズの発売も加速している。強力なクロスセルである。

 顧客を囲い込み、使い続けさせることで利益を創出することを「アフターマーケティング」という。プリンタつながりで例示すると、プリンタは本体よりも専用インクで利益を出す。「衣装」はダッフィーのアフターマーケティングである。手作り派もいるが、手作りするような熱心なファンは公式の衣装セットもしっかり購入する。季節ごとに販売され、売れ続ける。そして、シェリーメイの衣装も。

 企業が顧客化した後に収益を上げられるパターンは、大きく分けて「アップセル」「クロスセル」「アフターマーケティング」の3つだ。ディズニーはダッフィーでしっかりこの3パターンを用いている。そして、シェリーメイの投入で一気にそのパイを2倍に拡大したのである。やはり、恐るべしディズニーだ。

 ちょっとしたグッズを見たときに、「くだらない子どものおもちゃ」などと決め付けるのではなく、そこにどんな背景があり、どのような売り方で、顧客の財布のひもをゆるめようとしているのか、じっくり推察してみよう。ちょっと大人なテーマパークの楽しみ方が出来るかもしれない。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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