ヘッドフォンも“たのしいほう”にいきませんか郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)

» 2010年02月04日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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時間どろぼうのプロジェクト

 安藤さんはそれまでのOEM販売業務から、カスタムヘッドフォンのプロジェクトに10月2日付で異動。週末にサザエさん症候群になるヒマもなく、翌週5日の月曜に3人で集まってスケジュールを立てた。

 販売Webサイト構築のスケジュール、どんなに短くても3カ月かかるものだが、kotori(そのネーミングさえもなかった)では2カ月に縮めないとクリスマスに間に合わない。どうするのか。ミヒャエル・エンデ作『モモ』の灰色服の男たちのように“時間どろぼう”をしよう。外部パートナーにも開発協力してもらうことにした。

 「製品ブランディングやWebサイト構築、PR戦略全般を1から創るとなると、メーカーの意向を代理店が聞き、それを外部スタッフへ発注というスタイルになりがちですが、それでは伝言ゲームになるかもしれない。そこで直接話し合い発想をぶつけあって、クリエティブを共有して決定できるパートナーを探しました」と山口さん。

 決めたパートナーは3社。webサイト開発統括は国際的な知名度のあるWeb制作会社、ECとネーミング・コピー制作も国内一流の会社を起用。各界の才能を結集し、トータルディレクションを3人が担当した。

 20〜30代のデコ好きな女性が当初のターゲットだった。議論の末、もっと幅広いユーザー層に受け入れられるものにした。

 「『SWEET』や『ViVi』など女性誌をずら〜っと並べて、『どんなファッションにも合う色は何だろう?』から始めました」と今田さん。女性でもポップな人、かわいい人、自然派の人もいる。もちろん男性にも使ってもらいたかった。

 最初の候補25色から1回の会議で15色に絞り込んだ。だが、その後が大変だった。ABS樹脂やTPE樹脂、アルミと素材により質感が異なり、同じ色でも統一感が出ない。レッドやオレンジは発色が悪くイエローは芯線が透けてしまう。マットな色感の15色が完成するまでには調色での繰り返し作業があった。サン・アドのコピーライターチームと数十個の中から決めたネーミングは、個(KO=私だけの)、音(OTO)、オリジナル(ORIGINAL)をかけた。

kotori=ニッポン製造業の1つの解

 私はkotoriに、ニッポン製造業が抜け出せないジレンマからの解を観た。戦後、ずっと高付加価値品で成長してきた製造業は、需要の比重が新興国に移り「低価格&そこそこ品質」にシフトできずに苦しんでいる。あっちに行けば赤字。こっちにとどまれば縮小。多くの製造業は打開策を見出そうとしているが、kotoriの市場軸は違う。“たのしいほう”へ向かって、高性能とお値打ち価格、そしてセレクトという要素を組み合わせているのだ。

 不況下でも、楽しい仕事で社員をキラキラさせる組織はすばらしい。キラキラしている3人が作った、みんなびっくりする製品も近々発売するという。期待しよう。

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