「誰のための雑誌なのか?」を考える――大手出版社が女性誌のサイズを共通化(2/2 ページ)

» 2010年02月24日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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お客さまに評価されない提供者のこだわりは害悪

 これまで各社とも、雑誌創刊のたびに紙を特注し、サイズや厚み、紙質を微妙に変えることで、読者に個性を訴えてきました。もしかしたら、用紙サプライヤや印刷会社の営業マンに、「他社と同じ紙では差別化できません! 少しでもサイズを変えれば、手に取った時に違いが分かってもらえます!」とそそのかされていたのかもしれません。これらのサプライヤにしてみれば、対応サイズを細かく変えることにより、顧客のすみ分けができるので、多少用紙の提供コストが高くなっても、こちらの道を選ぶでしょう。

 しかし、本当にそうでしょうか?

 確かに印刷のできあがり、手触り、厚みは、使う紙によって、お客さまの反応、ブランドイメージに影響はあるでしょう。しかし、触っただけで1〜2ミリの幅の違いが分かる人が何人いるでしょう。各社の編集部は、「きゃー、『CanCam』のこのサイズ、カワイイーっ!!」という反応を、本当に期待していたのでしょうか。それであれば、判サイズを変えるなど大胆にやらないと、お客さまに気付いてもらえません。

 今回の取り組みについて、小学館の担当者は「寸法でなくコンテンツで競うことになる」と述べています。「うーん、何をいまさら」という感もありますが、お客さまに評価されない提供者のこだわりは無意味どころか、収益性と売り上げへの影響という二重の意味で害悪でしかありません。

 サプライヤのこだわりは上で見てきたように、提供コストに跳ね返ります。また、お客様に評価されないこだわりは、評価されていないゆえに販売時の値付けに反映できません。そうしたこだわりを勝手に価格に反映させれば、お客さまは必ず「高い!」と感じます。お客さまが値段以上の価値を感じなければ、当然、売れ行きも伸びません。

 今回の出版大手各社の用紙サイズの統一は部外者からすれば当然のように見えますが、、各社のメンツもあって、ここに至るまでに相当の紆余曲折(うよきょくせつ)があったことでしょう。

 それでも、各社がメンツを捨てられたのは、有力誌の休刊が相次ぐなど、出版業界が相当苦境に追い込まれているからでしょう。出版科学研究所によると、2009年の雑誌の販売金額は1兆864億円で、1997年のピークから31%減少、部数はピークの1995年と比較して4割強減っています。

 初めからミリ単位のサイズ競争などでなく、コンテンツの中身で競争していればこうはならなかったかもしれません。各出版社は、競争が激化する中で競争の軸を見間違えてしまったのでしょうか。我々、商品・サービスの提供者は、自分のこだわりではなく、お客さまが大事にする価値に徹底的にこだわる必要があります。それは、コスト削減の1つの近道でもあります。(中ノ森清訓)

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