報道とは何か? 事件と震災の取材で分かったこと――NHK解説委員・鎌田靖35.8歳の時間・『追跡! AtoZ』キャスター(1/6 ページ)

» 2010年04月14日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

連載「35.8歳の時間」とは:

 35.8歳――。これはBusiness Media 誠の読者の平均年齢である(アイティメディア調べ)。35〜36歳といえば、働き始めてから10年以上が経ったという世代だ。いろいろな壁にぶちあたっている人も多いだろうが、人生の先輩たちは“そのとき”をどのように乗り切ったのだろうか。

 本連載「35.8歳の時間」は各方面で活躍されてきた人にスポットを当て、“そのとき”の思いなどを語ってもらうというもの。次々と遭遇する人生の難問に対し、時に笑ったり、時に怒ったり。そんな人間の実像に迫る。


今回インタビューした、鎌田靖氏(かまだ・やすし)のプロフィール

 1957年5月、福岡県で生まれる。1981年、早稲田大学政治経済学部卒業、同年、NHK入局(名古屋放送局へ赴任)。1987年、報道局社会部・検察担当記者として、東京地検特捜部担当の事件を取材。リクルート事件や共和汚職事件、東京佐川急便事件など、政治家による汚職事件の取材を行う。1993年、神戸放送局へ赴任。阪神・淡路大震災が起きたとき、デスクとして記者を指揮。自らも被災しながら、取材を続ける。

 2005年に解説委員室解説委員。『週刊こどもニュース』のお父さん役を務める。2006年、『NHKスペシャル ワーキングプア』のキャスターを経て、2009年からは『追跡! AtoZ』のキャスターを担当している。


――NHK解説委員の鎌田靖は、社会部の記者として「リクルート事件」「東京佐川急便事件」「KSD事件」などを担当してきた。現在も司法担当の解説委員として検察幹部への取材を続ける一方、2009年4月から報道番組『追跡! AtoZ』のキャスターに挑んでいる。

NHK解説委員の鎌田靖氏

 小さいときから「NHKで働きたい」という思いは全くありませんでしたね。大学4年生のときに、漠然と仕事のことを考え始めたのですが、お金をもうけることについて全く関心がなかった。もちろん「お金がダメ」と否定しているのではなく、自分には向いていないと思っていた。それより「別の価値観を見いだせる仕事をしたい」という思いが強かったですね。

 そのように考えてみると「オレって就職先が、あまりないなあ〜」といった状態になってしまった(笑)。そこで弁護士の試験を目指したものの、早々に断念。また大学院に行っても、生活が苦しくなるのが目に見えていた。少し青臭いかもしれませんが、「この国がよりよい社会になるために、自分は何ができるのか?」と考えたんですね。で、なんとなくジャーナリズムの世界を希望しました。

 そのとき必ずしもテレビの世界を希望していた、というわけではありませんでした。就職試験のときには出版社や通信社、テレビ局などを受けましたから。もちろんいくつかは落ちましたよ(笑)。結局、テレビを選んだ理由は、あまり原稿を書くのがうまくないから。また映画が好きだったこともあり、自分は活字の世界よりも映像の世界の方が向いているんじゃないかなと思ったからです。

 そしてテレビの世界に入ることになったのですが、どちらかというと新聞記者に近い形でテレビの世界に入りました。民放の記者でもよかったのですが、採用の枠がとても少なかった。またいまは全く違いますが、当時の民放は報道が弱かったので、NHKに就職することを決めました。

なかなかスクープがとれない

 社会人1年目は名古屋放送局で働くことになり、そこで市内の警察署を回っていました。いわゆる“サツ回り”ですね。1年目は本当に苦しくて、特ダネなんて書いたことはなかった。他社の先輩はすご腕の記者ばかりで、よく抜かれていました。実は、取材のイロハは他社の先輩記者から教わりました。特に地元・中日新聞の先輩からはたくさんのことを教わりました。ま……敵じゃないから、舐められていたのかもしれませんね(笑)。

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