落合多武個展「スパイと失敗とその登場について」(2/3 ページ)

» 2010年07月02日 15時21分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

 3階へ。「明るい部屋」というテーマのフロアだ。

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 この作品は「熱帯雨林のドローイング」(2008-2009)。「コスタリカのジャングルの中で迷子になった経験から作ったドローイング」と書かれている。画面を見ずに、ほぼ無意識の状態で描いたというドローイングだ。手元に置いておく画材の色はあらかじめ決めていたという。無意識で自由に絵を描くということと、意識的に画材と色数を決めるという不自由さ。大自然の中に身を置くというのは気持ちいいのだろうが、同時にえもいわれぬ不安にかられる。そんな気持ちにもなるインスタレーションだ。

 落合氏は猫をよくモチーフとして用いる。これは、板に穴が開けられており、そこに猫がやってくることで完成する彫刻。約15分の映像だが、なかなか彫刻は完成しない。猫がやってこないのだ。

エキサイトイズム 「猫彫刻(スティーブン)」

 じっと映像の前で待っていると、猫がやってきたときの感動はひとしおである。猫がくぐり抜けてくる穴部分の板は、別の作品「空飛ぶパレット」2009年として会場内に飛んでいるので、ぜひ見つけてみてほしい。

 最後のフロア。「魔術っぽい部屋」である。この部屋は「っぽい」という部分が重要である。この作品は「北極点、南極点」(2010年)。落合氏の作品は「極」を為すものを扱ったものが多い。極というのはその言葉のとおり、きわみであり最果てであり、両極というと正反対を表す。しかしこの作品を見ていると、正反対なのに同じようにも見える。すべての極をなす物事なんてそんなものかもしれない、遠いようで非常に近い存在なのでは、と思わせられる。

エキサイトイズム 「北極点、南極点」(2010年)

 「ウェーブ」(2009年)という映像作品。真夜中の海を映した映像だが、よく考えるとまったく光のない場所で映像が映るはずがない。これはアトランティック・シティの夜の海がカジノ群のネオンで映し出されているのだ。そして、それを記録しているカメラは、自然物である海と人工物であるカジノの間に存在している。

エキサイトイズム 「ウェーブ」(2009年)

 これは作品タイトルのままである。落合氏いわく「思想なき宗教」。相手に伝えたいメッセージは特にない。勝手な解釈で、観る人の考え方次第で、ものすごく神聖なものにも見えるし、なんでもないものにも見える。

エキサイトイズム 「何かの宗教のおまもり」(2009年)

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