Zyngaは“無料”カフェ経営ゲームでどのように課金させているのか野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/3 ページ)

» 2010年08月18日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 アイテム課金のゲーム・アプリが増えているが、有料アイテムの売れ行きは各社によってかなり差が開いている。今回は、無料から有料販売に転換するためのポイントを述べたい。

『フリー』でまだ議論されていないこと

ALT クリス・アンダーソン著『フリー

 クリス・アンダーソン著『フリー』以来、何でも無料であることが成功の条件と思われがちだが、問題なのはフリーにした後である。文字通り無料のままではビジネスにはならず、広告料金であれユーザー課金であれ、マネタイズを考えなければならない。

 ユーザーへの有料販売を狙う場合、「どうしたらコンテンツに対して金を払ってもらえるのか」を考えなければならない。今までの常識からは、「より高い品質のコンテンツを提供する」とか「差別化する」という答えが出るだろう。しかし、「品質を良くすればそのまま価格に反映される」という従来の前提が成り立たないのが無料経済である。

 『フリー』の大意は、無料と有料との間には大きな断絶があるということである。品質を向上させれば比例して価格が上がる、というのが従来の常識である。しかし、フリー経済では、無料(0円)と有料(1円)の間に大きな溝があり、そもそも1円でも売れないことが問題となる。1円でも値段を付けてしまうと、「それに見合うものなのか」といちいちユーザーに考えさせてしまい、心理的取引コストが発生する。この心理的なハードルが越えられなければ、どんなに良いコンテンツを提供しても無料のままである。

 一方で無料であることは、こうした比例の考え方から外れた大きな力を持っている。この無料の爆発的な威力を使って、コンテンツの普及や集客を行うのが、フリーミアム(少数の有料利用者が多くの無料利用者を支えるモデル)の生き残り方である。例えば音楽では、楽曲自体は無料で提供し、たくさん集客した後、ライブなどの収益源を別に用意する方法がある。無料で提供するものとは別に、有料コンテンツを用意するのである。

 残念ながら、無料展開を有料化につなげる実践的なプロセスについて、『フリー』ではほとんど答えていない。「まずはフリーにして世に広め、別に収益源をプラスする」という提言だけでは、ざっくりしすぎている。無料展開していれば、自然とその中から有料で売れるものが出てくるわけではない。ユーザーが有料でも買いたいと思うのはなぜなのか、それは何に対してなのか。そのブラックボックスを解明することが、筆者の研究テーマである。

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