会社はユニオンを怖がっている……その“噂”は本当なのか吉田典史の時事日想(3/4 ページ)

» 2010年10月15日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

怖いのは、動かぬ証拠

 (2)の「ユニオンの名前を出せば、会社は怖がる」という書き込みも、信用できる情報とはいえない。ユニオンがメディアで盛んに取り上げられるようになった1990年代初めから後半までくらいは、特に中小企業の経営者の中には怖がる人がいたかもしれない。しかし今や、法律事務所やコンサルティング会社で「ユニオン対策セミナー」などとユニオン封じの勉強会が開かれている。

 人事・労務系の雑誌にも「ユニオン対策」といった記事があり、経営側の弁護士などが団体交渉の場で何を話し、どのような解決策を図ればいいのかと詳細に書いている。もはや、情報が乏しかったがゆえに怖がられた90年代とは状況が変わり果てている。その意味では「ユニオンの名前を出せば、会社は怖がる」といった見方は時代錯誤といえる。

 わたしはかつて会社と法的に争ったことがある。そのときの経験でいえば、会社が怖がるのは激しい団交やシュプレヒコールではない。「不当」と言い切ることができる、動かぬ証拠を集めて、それをもとに理路整然と追及していくことのほうが経営陣からすると、はるかに手ごわい。さらにそれを社内で吹聴されたりして、世論を形成されることを恐れる。それが、おひざもとといえる管理職に飛び火して「会社の側にも問題がある」などと言われ始めることを経営層は警戒する。

 このような状況になるためには、日ごろから自分の理解者を増やすことが大切だ。いざとなれば、味方はいない。リストラの前には、会社員は無力である。だが理解者を増やす姿勢を持ち続けていくと、土壇場になれば自分の身を守る「保険」になりうる。例えば証拠を集めようとしても、簡単にはそれができない。しかし理解者がそっと情報を提供してくれたり、証拠らしきものを渡してくれることがある。経営側が怖がるのはユニオンではなく、このような連帯にこそ、おののくである。

財政事情が苦しいユニオン

(3)の「ユニオンが労働者からお金をむしり取っている」であるが、これもわたしが取材で知り得た情報とは食い違いがある。この場合の「お金をむしり取る」であるが、ユニオンが会社と争った結果、会社から得る和解金(解決金)のことを意味しているのだろう。

 そもそも民事の争いを双方の合意のうえ、お金で解決することは当たり前である。このことは、問題視するべきではない。通常、その一部をユニオンが受け取り、残りを争った本人が受け取る。団体交渉をするためには、一定のお金が必要である。例えば事務所の家賃、電話代などの通信費、交通費など。こういうことを踏まえると、「むしり取る」といった見方は誤りである。

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