ドラッカーの「弱みに集中するな」を実践するために(1/2 ページ)

» 2010年11月25日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 ドラッカーは「自らの強みに集中せよ」と言っていて、これはリーダーにとって非常に示唆(しさ)に富んだ言葉で好きな人も多いと思います。意味の1つは、「個人にしても組織にしても、苦手や弱みを普通レベルや得意レベルとなるまで引き上げていくことはとても難しいので、強みをさらに伸ばす方が効果的である」ということ。

 もう1つは、「組織のメンバーが同じような強みを持っていても、それは外から見れば弱みがある状態」であって、逆に「各々が異なる強みを持てば、外から見て弱みがない状態にすることができる」ことをリーダーは理解すべきだ、という意味です。

 当たり前のようですが、自分の言動を振り返れば、メンバーの苦手や弱みがどうにも気になって、「それを直せ、学べ」と言いたくなりますし、自分や周囲ができることを「同じようにできるようになれ」という指導をしたくなってしまいますが、これはいずれも成果につながりにくい(苦手や弱みはなかなか克服できないし、みんなが似たようなことが出来たって外から見れば大した組織ではない)。それよりも、得意を認めて「それをさらに伸ばせ」「自分たちのできないことをできるようになってくれ」と逆のことを言った方がいいのだという指摘です。

 理屈としてはナルホドと言うしかありませんが、これを実践しようとする時には「強みとは何か」が問題となります。今の組織において「強みは何か」「本当にそれは強みか」「各々のメンバーの強みは何か」と問われて、リーダーとメンバー本人の答えが一致したものになっているか。もしくは、それぞれがどのような強みを持つようにすればよいか、を明らかにできるか。

 これらは実際にやってみると、とても難しいです。スポーツのようにさまざまなことが計測できればいいのですが、そうはいかないので強みを明確にすることが難しい。「強みに集中する」ためには、自分や、自分たちの強みが何かを明らかにするプロセスが必要だということになります。

 強みとは、常に相対的なもの。つまり、自分が強みだと思っていても、周囲や世の中の人々もできるようなことであれば、それは強みではありません。また、何か強みがあったとしても、時間が経って周囲や世の中の人々ができるようになってしまえば、あるいは、それが陳腐化して価値が低下してしまえば、強みとは言えなくなってしまう。

 とすると、1つは、他者や周囲、ほかの組織に目を向け、触れ合い、できれば中に入り込むことによって現状の相対的な価値を測ること、もう1つは過去や歴史を俯瞰(ふかん)し、未来にも目を向け、自分の得意を時間的な意味で相対化することが、強みを知るために不可欠なプロセスということになります。自分にばかり関心を向けても、強みは分からない。ドラッカーは別のメッセージとして、「市場や顧客に焦点を当てよ」と言っていますが、このこととも重なります。

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