なぜ待機児童は減らないのか?――JPホールディングスが保育事業に参入した理由嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(2/6 ページ)

» 2011年01月14日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

待機児童の実数は80万人以上

 「厚生労働省の発表によると、日本の待機児童数は前年度比891人増(3.5%増)の2万6275人(2010年4月1日)となっています。しかし、それは実際に空きを待っている“顕在化した数”であって、その陰には、こうした実態を目にして最初からあきらめてしまっている“潜在的な顧客”がその何十倍も存在するのです」

待機児童数推移(出典:厚生労働省)

 そんな潜在的な待機児童は大都市圏を中心に80万人以上いるとも言われる。では、行政の施策や民間企業の積極参入をうながすなどして保育園の数さえそろえれば問題は解決するのだろうか?

 「いや、そうではないんですよ」と、山口さんは苦笑し嘆息する。山口さんは2つの問題点を指摘した。

 1つ目は業界に根強い顧客軽視の体質。これを変革しない限り、数だけ増やしても顧客のニーズを満たすことはできない。

 2つ目は既得権益にしがみつき、企業などの新規参入を嫌う業界の体質。経営学で言うところの「よそ者拒否シンドローム(=Not Invented Here)」である。これも変革しない限り、企業の積極参入をいくらいながしてみたところで参入は進まない。

 日本の保育園は長い間、公立と、私立の主として社会福祉法人立によって運営されてきた。それが2000年の児童福祉法改正と、2003年の指定管理者制度の導入によって、株式会社でも私立保育園の設立や運営が可能になるとともに、公立保育園の受託運営を行えるようになった。

 しかし、2009年4月時点でも公立1万1008カ所に対して、1万1917カ所ある私立の89.3%が社会福祉法人立で、株式会社立は1.3%(157カ所)に過ぎず、民間企業の参入が進んでいないことが裏付けられる。

 山口さんが指摘した保育業界特有の「顧客軽視」「新参者排除」の体質。そこで、具体的に何が起きているのかお聞きしてみた。

働く女性を批判する保育園の論理とは?

 「もちろん立派な経営をされている保育園もありますが、一般的な傾向として言えば『夜は仕事をしたくないので夕方までしか預からないし、日曜や祝日は仕事をしたくないので子どもを預からない』というのが業界の体質です。だから、保護者会や運動会を平気で平日の昼間にやるんですよ。働いている人を支援するために存在するのが保育園なのに、働いている人の事情をまったく考慮せず、自分たちの都合だけで運営しているところが多いんです。

 延長保育はせいぜい19時までで、それも内心快く思っていないので、そういう気持ちが子どもや保護者に対する態度となって露骨に表われるんです。まして休日保育をやっているところなんてほとんどありません。許せないですよ」

 憤まんやるかたない表情で山口さんは言葉を継いだ。

 「しかも、保育園側のそうした運営姿勢が多くの子どもや保護者を苦しめていることに関して、自分たちの責任だとは認めず、逆に保護者に責任を転嫁して面と向かって彼らを非難するのですから話になりません」

 厳しい経済情勢下、共稼ぎで頑張っている女性たち、さらには離婚率の上昇に伴い急増しているシングルマザーたち。彼女たちは月〜金曜の9〜17時に仕事をし、定時退社で子どもを迎えに行ける環境にある人ばかりだろうか?

 もちろんそういう人はある程度いるものの、男女雇用機会均等法以降の流れを考えると、決して圧倒的な多数派とは言えなくなっているだろう。とりわけ2003年に総計122万世帯を突破したシングルマザーたちには非正規労働者が多く、日曜や祝日も関係なく働き、あるいは夜間勤務の仕事に従事している人も少なくないのが現実だ。

 「保育園の経営者たちには、そうした厳しい立場にある人たちや、夜遅くまでの延長保育や休日開園など保育園のサービス内容改善を希望する人たちに対して、『何でそんな仕事をしているのか? 子どものためを思うならば、月〜金曜の9〜17時の仕事に就け』と平気で言い放つ人が多いのです。何かというと『子どものため』と言いますが、自分たちのためでしかないのです」

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