アニメで“お金”と“未来”の話を描く――ノイタミナ『C』中村健治監督インタビュー(3/4 ページ)

» 2011年04月14日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

自分たちの中から出てくるものだけ作るのはもういい

――今までの作品でも取材は重視されていたのですか?

奥田英朗著『空中ブランコ』

中村 僕は『C』の前に『空中ブランコ』(2009年)というアニメを制作しました。奥田英朗さんの小説をもとにしていて、直木賞も受賞している強力な原作でした。

 心の病を扱った作品だったんですね。自分の周りにもそういう病気が原因で亡くなった方がいて、「軽く笑って済ませられないぞ」という覚悟のもと「現状を知らないといけない」ということで取材することにしました。人を楽しませるもので傷つけたくはないので、「何をやると誰を傷つけるか」が知りたかったのです。

 テレビで放映すると、見る意思がなくても偶然見てしまう確率が非常に高い。また、視聴者に間違った知識や偏見を広めてはいけないので、ギリギリまで調べようと思いました。最新の精神治療に携わる現場の方々が何を考えて、患者にどう接し治療に当たっているのかといったことを詳しくうかがって参考にさせていただきました。

 そういった経験の中で新しくオリジナル作品を作ろうと考えた時、「自分たちの中から出てくるものだけ作るのは、しばらくもういいかな」と思ったのです。

 僕たちが持っているものは、アニメを作る技術だけなんです。アニメの有利な点は、「堅いことをやわらかく描けること」「当たり前のことを素直に届けられること」だと思っています。僕のミッションの1つとして、「そういう機能をアニメ業界の外の人たちに開放したい」というものがあります。そこで、今回は内容も外にハンティングに行って探そうということで、取材を重視しました。今後の作品でも機会があれば、そういうことはコツコツやっていきたいと思っています。

――今回は最初からオリジナルアニメを作ると決まっていたのでしょうか。

中村 完全にそういう課題を与えられていて、逆に僕らが「原作ないの?」と戸惑ったくらいです(笑)。

入り口を"スイーツ"に

――そうした取材を経て、『C』はなぜバトルものになったのですか?

中村 最初は経済や金融をネタにしようとしていて、その次に貨幣をネタにしようとなって、最終的にはシンプルに広くお金をテーマにしちゃえばいいじゃんと変化していったんですね。

 その過程で、闇金をネタにした漫画や、『カイジ』のようなギャンブル漫画も読んだのですが、お金をテーマにした作品だと「お金が人を狂わせる」という方向に行きがちなので、「僕らはちょっとそっちには行きたくないな」という気持ちがありました。

 シリアスだけど、ネアカに行きたい。見ている人が眉間にしわを寄せるものはあまり作りたくないと。入り口は柔らかく甘くて、スイーツのようなアニメと思って見ていたら、結構ハードな話を見せられてしまったというような作品を目指しています。だから、経済もの、金融ものと見られるのは実は不本意で、まずはバトルものということで見ればいいじゃないかと思っています。見てみたら、「成長率とかM&AとかEBO※とかいろいろ出てくるなあ」みたいな。

※EBO……Employee Buy-Out。会社の従業員がその会社の事業を買収したり経営権を取得したりする行為のこと。

 金融に興味がある人にとっては、M&A用語などは聞き慣れていると思いますが、まったく聞いたことがない人もいるはずなんですね。一方、よく知っている人たちには、「M&A用語をこんな技の名前にしちゃって、バカじゃないの」と笑って見てもらえればいいですし。

 アレンジの面白さも見てほしいですね。バトルの中で企業買収や経営権委譲などがどのように表現されているか。結構割り切って大胆にアレンジしているので、中学生くらいで『C』を見た人が、大学で経済学部とかに入った時に「だからそういう風にしたんだ。バカだなあ」と答え合わせしてくれればいいと思っています。本当に肩ひじ張っていないので、経済などに興味を持つスタートラインとなればいいなと思っています。

――首都圏の震災を描いた『東京マグニチュード8.0』や、AR(拡張現実)・ニート問題などを描いた『東のエデン』のように、ノイタミナという枠では社会性を持ったテーマを取り上げることも多いですが、『C』でも意識されましたか?

中村 「ノイタミナ枠だから社会的なテーマを取り上げなきゃ」という意味では、完全に意識していないですね。

――「こういう経済系のバトルものをやってみたい」と、ノイタミナのプロデューサーに伝えたらどんな反応でしたか。

中村 言ったら、ハハハと笑っていましたね。

 僕らのチームのオリジナルアニメの企画は7〜8つくらいあったんですね。もっと漫画チックなものもありましたし、もっと地味なシリアスなものもありました。テーマもバラバラです。バラバラな中から1カ月くらい喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をして、『C』に決まりました。

――ノイタミナを放映するフジテレビは、ライブドアとの一件も想起させるので株式市場のことなどをテーマにすることには拒否感があるかとも思ったのですが。

中村 むしろプロデューサーからは、「元ライブドア社長の堀江貴文さんに取材に行ったら?」とも言われました。ただ、今回はタイミングが悪かったのかお目にかかる機会はなかったですね。

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