「騙し絵」と「企業ビジョン」の不思議な関係(2/2 ページ)

» 2011年06月22日 08時00分 公開
[伊藤達夫,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!
前のページへ 1|2       

ものの見え方がコロコロと変わると心の病になる

 繰り返しになりますが、「全体として見たいもの」、を規定しないと意味合いというものは、出てきません。その「全体として見たいもの」というのが、企業の長期的な意思、ビジョンですね。ビジョンがないと、ファクトの評価ができません。ファクトの意味合いが分からなくなります。

 もし、企業体に属する個々人が、まったく違うビジョンを見ていたら、同じファクトを見ても、反応が違ってしまうんですね。あまり組織としての力を発揮できないことになります。企業の意思は、当然、経営陣が明確化すべきものです。そのビジョンに呼応して、従業員は集まってくる、日々の活動に意味合いを見出していくものですからね。

 経営者が方針をコロコロ変えると、メンタルヘルス的には非常に悪いことが分かりますよね? 老婆と貴婦人の例で言えば、ある時に老婆の目に見えているものが、突如、貴婦人の耳だ、ということになるわけです。

 この例では分かりやすく2つの全体像しか提示していませんが、全体像がいくつもあったとします。従業員は、各部分を見ていることになりますが、ある時はAという全体像で見ることを求められ、あるときはB、またあるときはC、Dとなれば、目の前の事実の意味合いが本当にめまぐるしく変わります。

 目の前のものの見え方がころころと変わってしまうのは、「ゲシュタルトが揺らぐこと」になるんです。ある意味で、心の病の状態に近くなってしまうんですね(このあたりのことの解説はまた別の機会に書かせていただきます)。

 だから、企業のビジョンは設定したら、それに基づいて経営することが大事になります。オーナー企業で、コロコロと方針が変わる企業は、離職率が高かったりしませんか? あるいは、方針をコロコロ変える上司の部門でも、そうだと思います。

 確かに、強くて明確なビジョンは、なかなか簡単にはできません。しかし、ビジョンがなければ、外部環境をいくら分析しても、その意味合いというのは出てこないんですね。ファクトを集めても、分析の視点がなくなってしまう。意味合いが規定できない。つまりはアクションに結びつかない。単にファクトを集めても、アクションに結びつかなければ、そのリサーチは無駄ですよね?

 「こんな価値をこんな顧客に対して提供していくことで、社会を、世界をこうして変えていきたい」ということをしっかりビジョンとして規定する。その上で「外部環境がどうなるか?」をシナリオプランニングなどの手法を使って予測し、その上でそれがビジョンに対してどんな意味合いがあるかを考える。

 その意味合いを統合して、市場の変化とその変化への対応、ビジョンの実現への近付き方を3〜5年で規定する。まあ、かっこよく言うと、戦略策定でしょうか。そのビジョンへの近付き方が方向性であり、アクションが束になっているものですよね? だから、ビジョンもないのに、ファクトを集めるのは、価値の低い行為ですね。1回のリサーチ結果に一喜一憂してもあまり意味がないのです。

 お仕事の時に、リサーチの意味合いのお話をする時、私は、老婆と貴婦人のお話から、ビジョンのお話、メンタルヘルスのお話、意味合いから、アクションへの結び付け方のお話をします。ちょっと長くなりますが、分かる人は30分ぐらいで分かってくれます。このつながりも、1つのゲシュタルトですよね?

 私はうまく伝えられていますか? まあ、「こういうパッケージで私は商売している」ということですね。完璧だとは言いませんが、企業を大きく安定させるには、こういう考え方が必要だと思います。企業の経営陣は、従業員のメンタルヘルスにも責任があると思います。

 少しでもハッピーの総量が大きいビジネス社会の到来を心から願っております。(伊藤達夫)

関連キーワード

企業 | 経営 | メンタルヘルス


前のページへ 1|2       

Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.