ソーシャルビジネスからエヴァの缶詰まで、広がる“おいしい”保存食の活躍(後編)嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(5/5 ページ)

» 2011年07月22日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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エヴァやメイドカフェのプライベートブランドも

 パン・アキモトの活動について明らかにしてきたが、実はそうした災害備蓄用保存食とはまったく無縁と思われるところで、我々は思わず知らずパン・アキモトの商品に触れ、あるいは目にしてきたであろうことをご存じだろうか?

 そうした特筆すべき変化球の1つとして、多様極まりないプライベートブランドの存在がある。パン・アキモトでは世の中で話題になっている漫画やアニメ、小説や映画、イベントなどとコラボレーションしたパンの缶詰をOEM生産しているのである。しかもその多様さは、この分野に詳しいと自称する編集者H氏も絶句するほど!

 主要なものだけを挙げても、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』『ゲゲゲの鬼太郎』『新世紀エヴァンゲリオン』『CLANNAD』など。

『新世紀エヴァンゲリオン』(左)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(右)

『CLANNAD』(左)、もちろん一般企業も活用している(右)

 そして取材当日、工場でちょうど作っていたのが今年1月〜3月に放映されたアニメ『インフィニット・ストラトス』。さらには秋葉原のメイドカフェ「@ほぉ〜むcafe」まである。それぞれのファンにとっては、まさに“垂涎の的”とも称すべきお宝グッズであろう。JR秋葉原駅の総武線ホームの自動販売機で買えるものもあると聞く。

工場では『インフィニット・ストラトス』の缶詰を作っていた(左)、@ほぉ〜むcafe(右)

 「こうしたプライベートブランドはパンの缶詰ができて間もないころから作り始め、今では売り上げの10%以上を占めるまでになりました」と秋元さんは言う。

 いかに東日本大震災があったとはいえ、全国の生活者がパンの缶詰の魅力や有用性に一斉に開眼するわけではない。こうした限定生産のプライベートブランドを通じて初めてパンの缶詰を知り、それをきっかけに救缶鳥プロジェクトに参加するケースも多々出てくるだろう。

 「プライベートブランドは小ロットでもお引き受けしています。ですから、例えば結婚式の引き出物とか、何かの記念の品として少数お作りになりたい時など、ぜひお申し出ください」

 そう言われて会議室の棚に目をやると、なるほど本当に一般の方々の結婚記念の缶詰が置かれていた。「いきなり救缶鳥プロジェクト参加というのは、いささかハードルが高い」という人にも、これはお勧めだ。

香典返し用のシュールな缶詰

スペースシャトルも採用

 プライベートブランドの多様な展開と並んで、パン・アキモトの特筆すべき変化球として触れないといけないのが、パンの缶詰のスペースシャトルへの採用だろう。

 沖縄工場で製造されたパンの缶詰が2009年、「SPACE BREAD」として若田光一さん搭乗のスペースシャトル「エンデバー」に乗って宇宙へと旅立ったのである。

「SPACE BREAD」

 秋元さんは、当時をこう振り返る。

 「以前からNASAの関係者にはパンの缶詰の現物を見てもらい、その品質特性などを知ってもらっていたという経緯がありました。

 それに加えて、沖縄工場が駐留米軍の基地内(カミサリー)でパンを販売するために、米国のフードインスペクターの許可証を取得していたこと、そしてパンの缶詰が日本や中国、台湾と並んで米国で特許を取っていたなどが採用の決め手になったようです」

 災害備蓄用の保存食や非常食といったものは、今回の大震災のような特殊な局面で一時的に脚光を浴びることはあっても、平常時には陰に隠れた目立たない存在である。しかし、できれば常日頃からこうした商品の存在を知り、非常時に備えると同時に、海外の飢餓や災害への支援を心がけることもまた重要だろう。

 そういう意味において、非常食としての本来の用途とはやや異なるものの、プライベートブランドやスペースシャトルでの採用といったような話題性のある露出は、やがて救缶鳥プロジェクトへと進む最初のきっかけを人々に与えるという点で、重要な役割を果たしていると言えるだろう。

 読者のみなさまも、まずは上記のようなプライベートブランドからパンの缶詰の世界に触れてみてはいかがだろうか?

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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