「基本無料」でビジネスをする方法――ソーシャルゲームのマネタイズ戦略(6/6 ページ)

» 2011年09月09日 13時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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今後、注力するポイントは

鶴谷 最後に今年から来年にかけてここを注力するぞ、ここはもうかる感じというのを教えていただければ。

椎葉 私はオンラインゲームの仕事をして8〜9年になるのですが、まあ変わらないですね。この会場の100%の方には「すべての端末がネットにつながって、それにおけるゲームが舞台になる」ということだけはほぼ同意いただけると思うんですね。その中でも最もみんなが持つ端末は何かというと、スマートフォンになっちゃうんですね。私は去年の年末くらいまでは、今年1年でスマートフォンがどうにかなるとは全然思っていなくて、この1年は何をして食っていこうかと思っていたのですが。

 どうしてもスマートフォンが普及してしまうのですが、スマートフォンを含めたネットにつながる端末でゲームをするというところは全然変わらなくて、その中でやることはゲームらしいゲームというか、年単位で遊べるというのは、どうしてもゲームらしいゲームになってしまうので、そういったものをしっかり作ることをやっていくだけですね。

 「面白いゲームを作るしかない」と本城さんが言った通り、「じゃあ面白いゲームってどうやって作るんだ」というところの議論はあるのですが、それをやるしかないですね。「面白い」はユーザーやターゲットによっても違うということも認識しなくてはいけなくて、スマートフォンをこれから持つ人はどんな人か、どういう時間で遊ぶのかというところはちょっと考えなくてはいけないんだろうなと思っています。ただ基本は「一番普及するネットにつながる端末でオンラインゲームを作る」というすごいシンプルなことです

深田 これも新しい言葉なのですが、Online to Offline(O2O)というマーケットが今すごく伸びると言われています。PCではないところでネットが使えるようになって、地上の移動や通勤通学などあらゆる瞬間がオンラインになっていくことで、オフラインでの人間の行動や活動がインターネットに大分影響を受けるようになるという話です。

 ただ、人間はまだオンラインの領域で3%くらいしかお金を使っていなくて、97%はオフラインの領域で使っているので、オフラインのマーケットをオンラインにどう取り込んでいくのかということがすごく面白いことで、モバイルをやっているんだったらそこにいかないと意味がないと思っているので、マーケットとしてはそこを狙います。

 そして、切り口としてはゲーミフィケーションかなと思っています。そういうことをやれる会社は実は少なくて、概念自体が新しいこともありますが、全世界的な視点で見た時にもPCの領域からゲーミフィケーションをやりましょうという会社がほとんどです。日本のモバイルの価値みたいなことを生かしてモバイルあるいはO2Oの領域をゲーミフィケーションを使って、ユーザーがもっと楽しく店に来れるようにするといったことを、日本に拠点を置いている会社としては世界の視点から見て勝てるマーケットということで狙うというのが我々の発想です。

 そういう意味ではゲームのノウハウはすごく大事だと思っていて、「ゲームを作られているみなさんのノウハウは、実はゲーム以外のところでこれから急速に求められるようになりますよ。そういうところにもぜひ目を向けてみてはいかがでしょうか」というのが、今日みなさんにお伝えしたいところです。

本城 もともとオンラインゲームを作りたくて会社を作った経緯があって、ずっとネットワークの研究をしてきたのですが、スマートフォンの普及具合を見て、「ようやく夢に見たすべての人がオンラインゲームで遊べる環境になった」と私は感動していまして、非常にワクワクしています。

 椎葉さんのように10本作っているわけではないですが、DropWaveもスマートフォンのオンラインゲーム、ソーシャルゲームというところにほぼ特化しています。そちらに向けて、国内だけでなく世界のマーケットにも向けてタイトルを出していきます。

 先ほど「中小のSAP(ソーシャルアプリケーションプロバイダー)はそろそろ苦しいんじゃないか」という話があったのですが、逆にプラットフォーマーは大手メーカーとお付き合いをしても浮気をされてしまうので、そういう意味では(私たちのような中小の)SAPは特定のプラットフォーマーや大手メーカーと組んで、巨人の肩に乗って、世界中にコンテンツを配信していきたいと思っています。

 またDropWaveはリアルタイムの通信サーバも持っていまして、普通にオンラインゲームも作れる会社なんですね。同期サーバを作れる会社なので、そちらを利用したコア向けのスマートフォン上のオンラインゲームと、ソーシャルのユーザー数を頼みにしたソーシャルゲームのオンラインゲームをスマートフォンで広く展開していきたいと思っています。

課金率や課金額は

 CEDECの招待セッションや協賛セッションではなく、公募で行われたセッションにも関わらず、満員となった会場。パネルディスカッションの後の質疑応答では、大手メーカー社員や大学講師から質問が投げかけられた。

――スマートフォンには大手がこれから参入しようとすると思うのですが、その中で自分たちはこういうことで差別化していきたいというところがあればお聞かせください。

椎葉 「現状、モバイルソーシャルゲームを除いて、オンラインゲームのジャンルで基本無料できっちり稼げるゲームを作っている会社はありますか?」というQに対して、Aは「ほとんどない」ですね。それは僕らの自負であり、事実だと思うんですね。僕らはキャリアが違うので、基本無料のオンラインゲームをちゃんと作り切る能力が他社よりもはるかにあると思っています。

 ただ、それも寿命があまり長くないんですね。正味1年くらいで勝負したいと思っていて、「1年間に10本出します」という話がすでに大手に勝っているところかなと思います。大手で今すぐ10本立ち上げて、しかも億とは言いませんが結構な金額を投じることができるかというと、多分できません。

 グローバルでもそうだと思っていて、特に基本無料というビジネスモデルは欧米では結構いびつで、Zyngaの基本無料のソーシャルゲームの売り上げを倍にできると思う人はいっぱいいると思うんですよね。全然マネタイズがうまくできていなくて、欧米の会社は基本無料のビジネスがまだ弱いなと思っています。反対に韓国や中国はどうしてもPCのオンラインゲームが強すぎるので、そこの隙間があると思っています。

 日本の大手はすごく注力されていると思うのですが、どういうジャンルにどういうものを作ったらいいのかを迷うだけで、会社の決済を通すために何カ月もかかってしまうと思うんですよね。うちは僕が「明日このプロジェクトをしよう」と言ったら作れてしまうので、そこのスピード感で勝つつもりです。

――お金を払わないユーザーとお金を払うユーザーの割合と、1人いくらくらい払うかを支障がない範囲で教えてください。

椎葉 『RED STONE』の月商3億4000万円がどういう数字かというと、月間アクティブユーザーが10万人で、課金ユーザーが4万人。この時点で数字がおかしいと思いませんか、課金率が40%あるんですね。1人月8000円払うので掛けると3億2000万円ですね、ほぼこういう数字です。

 『ブラウザ三国志』は言えないのですが、ブラウザ三国志じゃないとあるブラウザゲームの数字はやっぱり客単価が月1万円を超えるんですね。月商3億円いくには3万人の課金者が必要で、課金率は20%とかそういう数字になっています。

 PCのオンラインゲームだと初期の基本無料では「課金率が7〜15%いったら良い方」と言われていたのですが、今は20%とかいっちゃうんですよね。それは作り手が慣れてきたし、お金を払う側も払い慣れてきたからかもしれないですね。

 ゲーム内容が濃いので、そこは今ソーシャルゲームをやっていらっしゃる方と多分大分数字が違っていて、でも濃いのでターゲットになるユーザー層が狭いという問題は常に抱えています。『怪盗ロワイヤル』のように1000万人のユーザーはとれないと思っています。狭く濃くターゲッティングをして、セグメンテーション化してユーザーを取っていくみたいな考え方をしたから、その数字が出ているというところもあると思います。

本城 一般的かどうかは分からないのですが、DropWaveでやっているモバイルソーシャルゲームの場合は、実は月間とかはあまり見ていなくて、ひたすらデイリーの数字を追っていたりするのですが、月間だと多分アクティブユーザーが10数万人で、課金率は10%いかないくらいですね。客単価も2000円いかないくらいだと思います。

 デイリーで見ていると、イベントの最終日に1日で5〜6万円使ってくれる女の子がいたりして、そういうところに注目して運営しています。

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