興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由(5/7 ページ)

» 2011年12月22日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

映画市場は変わったか?

 それでは2011年はどうだったのかという話なのですが、震災の影響ではないとみんな言ってはいるのですが非常に悪い成績で、2010年比80%台かなと業界ではささやかれています。2010年の興行収入2207億円から20%落ちるということで、1800億円くらいですね。1999年以来の1800億円台かということなのですが、怖いのはスクリーン数が当時と全然違っているんですね(1999年2221スクリーン、2011年3340スクリーン)。

 「今年はダメだったね」とあからさまに言ってしまうのが映画業界のいいところなのですが、何となく「構造的にやばいんじゃないかな」という雰囲気も漂っています。負けた映画を持ってきた人でも次にまたケロッと負けそうな映画を持ってきてくれることが僕が映画業界の大好きなところで、1作終わればリセットというところが映画気質と言いますか、「次はもうけさせてやるからさ」とは必ず言わない彼らの潔さが非常に大好きで、滅多に真面目な話をする人もいなかったのですが、最近は「構造が変わったかもしれないね」と言う人も多くなってきました。スクリーン数は多分今年が最後の増加になって、来年から減少していくのではないでしょうか。スクリーン数の減りと、それに伴う興行収入の減りがどこまで抑えられるのかということですね。

 みんな表の場では「震災の影響はなかった」と言います。しかし、当時『毎日かあさん』を上映していたのですが、お客さんの入りは前週比20%になりました。80%マイナスでそのまま回復せずに終わったのですが、やはり狭いところに行きたくなかったからということでしょうか。

『世界の中心で、愛をさけぶ』

 また、邦画はみんな『世界の中心で、愛をさけぶ』をモデルに作っていると言っても過言ではないと思います。難病の登場人物がいて泣ける、誰かが死ぬというところでドラマツルギーがあったのですが、そういう映画が当たらなくなりました。

 『アントキノイノチ』(2011年)には期待していたのですが、初日と2日目で興行収入が8000万円ほどというのを見た時、やっぱりつらい現実を見た人がもっとつらい現実を劇場にお金払って見に行かないんだなということをすごく感じました。『アントキノイノチ』が当たらなくて、『モテキ』が当たるというのが今の邦画市場なのかなと思っています。

 そういう形で市場が変わったのではないかと言われているのですが、毎日新聞社では映画出資を10年間続けてきて、負けてもいるのですが、いまだに出資した以上の配当が返ってきているという実績があります。こういう会社は珍しいらしいのですが、この貯金がなくなったら解散しますと上には言っています。

 邦画バブルの時期に自社の原作を映画化できるようになったので、小学館や集英社、角川書店には後れをとっていますが、もう1回頑張ってみようと思っています。原作の窓口をおさえることもそうですが、例えば新聞に載った事実を小説にして映画化するというなかなか具体的にならない案とか、いろいろあったりします。

 次は、朝日新聞社が映画化した『悪人』の原作者である吉田修一氏の新聞連載『横道世之介』を映画化するのですが、原作から映画を作って新聞社に何ができるのかということを体感して、後輩たちに残していきたいと思っています。

 また、それとは別に、ODS(非映画コンテンツ)をやってみたいと思っています。例えば、今はやっていないですがAKB48の総選挙やじゃんけん大会を劇場で中継するといったことです。ティ・ジョイの劇団☆新感線シリーズや松竹のシネマ歌舞伎がODSの先駆けだと思うのですが、ニッチな人に向けた非映画コンテンツを作って、収益をあげるビジネスをやっていこうと考えています。

 囲碁将棋の担当者が今、私の隣に座っているのですが、朝日新聞と共催している将棋の名人戦よりもうかる試合が1つあるらしいんですね。それは名人への挑戦者を決めるA級順位戦で、ものすごく盛り上がって千駄ヶ谷の将棋会館は人があふれるという話を聞いています。それを全国の劇場で流せばどうなるかという話を今、ある映画会社と話しています。

 都市対抗野球も非常にニッチなのですが、ある映画会社の営業に「東京ドームで試合をやるんだけど、例えばJR九州が出場した時、社員は東京まで見に来れないから、JR九州の大きな支店がある地域の劇場で流したら、企業動員できるんじゃないか」と話したら食いついてきました。ただ、「トーナメントなので、1回戦はおさえられても、勝ち進むか分からないので2回戦以降はどうすればいいのかという問題はあるね」という話もありますが。

 なぜその2つをやるのかというと、CS放送が入っているため、制作費が限りなく安く済むからということがあります。そういうコンテンツをもし映画館で流したらどうなるのかということを、リスクをあまりかぶらずにできるんじゃないかと。

 なぜこれをやり始めたかというと、はっきり申し上げると『犬と私の10の約束』『劇場版MAJOR』『毎日かあさん』などは良かったのですが、そのほかの作品が結構苦戦しているんです。広告収入があったり、出版収入があったりしていいじゃんという話を今までしていましたが、「じゃあ事業本部単体の利益はどうなの?」ということが最近問われています。

 「出資に対するリターンがこの成績だと映画事業は続けられない」というようなことを部門長から言われていて、事業本部にメリットのあることは何かと考えたらそういうことなのかなと。原価を抑えて映像化できれば、ある程度の収益になるのではないかと思っています。

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