興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由(6/7 ページ)

» 2011年12月22日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

五月雨をあつめてはやし最上川

 『あらしのよるに』は伊藤忠商事が出資しているのですが、名刺交換をした時、モリゾーとキッコロの絵が描いてあったんですね。ちょうど愛・地球博の時だったのですが、「終わったらどうするんですか」と聞いたら、「いや、考えていない」と。

 CSR(企業の社会的責任)が言われ始めたころだったので、「いやいや、モリゾーとキッコロという環境のキャラクターを持っている会社が終わったら知らんぷりということは、きっと許されないはずですよ。実はうちに『MOTTAINAI※』というキャンペーンがあって、商品を作りたいのですが、新聞社には商品作りのノウハウがないので一緒にやりませんか」と、「あらしのよるに」製作委員会が月1回あったので、会うたびにしつこく言っていたんです。

※MOTTAINAIキャンペーン……ケニアでの植林活動(グリーンベルト運動)が評価されて、2004年に環境分野として初のノーベル平和賞を受賞した故ワンガリ・マータイ氏が始めたキャンペーン。「もったいない」は3R(Reduce、Reuse、Recycle)をひと言で表す言葉で、命の大切さや、地球資源に対するRespectという意味も込められていることから名付けられた。
MOTTAINAIキャンペーン

 すると、「じゃあ話を聞いてみよう」となって、伊藤忠商事の人と、MOTTAINAIキャンペーンを担当していた僕の先輩を引き合わせたところ、話がトントン拍子に進みました。もともと先輩はMOTTAINAIのロゴを使ったTシャツを作っていたのですが、伊藤忠商事の協力で8000アイテムくらいの商品が日本に出回って、そのロイヤリティが毎日新聞社の事務局経費、伊藤忠商事の手数料、グリーンベルト運動への寄付に回されることになりました。今までエンタテインメントの仕事ばかりしていたので、環境に貢献する仕事ができて良かったと思うと同時に、新聞社がロイヤリティ収入を初めて体感したのが、このMOTTAINAIキャンペーンなんですね。

 今までの新聞社は400万部新聞を売って収入がいくらだとか、15段の広告を1本この会社に売ったら何千万円だとか利幅の大きい仕事をして生き延びてきました。しかし、広告の売り上げが10年間で半分になって、もっと言うと私が入社した1990年と比べると4分の1くらいになっていると思うんですね。大きな商売がしづらくなった中、MOTTAINAIキャンペーンのロイヤリティ収入がいくらとは言えないのですが、2010年にかなりの数字があがったことを見て、ちょっと社員の意識が変わってきたのかなと。

 ODSで将棋の中継をやっても、もうかるお金は多分大したことはないと思うんですね。数十万円くらいだと思います。入社1〜5年目の後輩たちと酒を飲む機会もよくあるのですが、その時に「新聞社はこれからどうやって生きていったらいいんですかね?」と聞かれた時、僕は必ず「五月雨をあつめてはやし最上川」と言います。新聞社は今までみたいなおいしい商売はできないし、ガラッと変える収入源もきっとないはずなんです。だから、原作の窓口のように手間を考えると大した収入ではないですが、今までロスしていたものを煩雑にはなりますが、取っていくしかないのかなと。

 新聞社はロスしている部分ってものすごく多いんですね。今まで見捨てていた10万円も10本集めれば100万円ですし、100万円も10本集めれば1000万円なので、そういったビジネスチャンスを多く生かしていくことが今後の新聞社の生き残り方かと思います。

 新聞も電子ペーパーとかいろいろ変革の時期があると思いますが、そんなにもうかる仕事ではないと思います。iPhoneでも一番読まれているのは多分産経新聞だと思います。残念ながら、タダのものが一番読まれているという状況なので、新聞社がこれから大きなお金を集めていくのは至難の業かなと。

 「もし将来があるとするなら、今までめんどくさくてやらなかったことをたくさん集めていくしかない」という、あまり夢のない話をいつもしていて、後輩から「それしかないですかね?」と問われて、「それしかないんだ」と答えるような、なかなか夢を描けないような時代になってきました。

 ただ、時代の変革期は多分いろんなことがあると思います。田舎の大学から東京の新聞社に入って、広告の仕事は先輩がたくさんいたのですが、映像の仕事についてはほとんど手探りで今までやってきて、何とかなっているということで、気持ちが折れない限りは何かできるのではないかと思っています。ビジネスとロマンが両立しないと映画は成り立たないと思っていますが、どちらもものすごく大切だということで今日の話を締めさせていただきます。

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