興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由(7/7 ページ)

» 2011年12月22日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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出資を決めるポイントは?

――出資する映画を決めるに当たって、どういったことがポイントになるのでしょうか。

宮脇 これは非常に難しいところで、今まさに私が問われているところです。持ち込まれる映画がほとんどで、ある映画をやっている時に「次にこんな映画があるけど入らない?」と誘われたり、毎日新聞社が映画に出資していると聞いた人が飛びこみで来るところもあります。

 飛びこみで来た人に必ず言うのですが、まず配給が決まっていることですね。邦画は2010年に408本上映されていますが、作られているのは600本くらい、もしくはそれ以上かもしれません。松竹、東宝、東映などの映画会社が作っていれば配給が決まっているわけですが、持ち込まれる映画は決まっていない場合が多いんですね。配給されない映画は収入がないので、「配給が決まっていないなら、うちではちょっと出資の検討はできません」と話します。

 もう1つは、当たる確率があるかです。そこは非常に難しいところで、データはあります。例えば、2010年に興行収入が25億円以上いった作品は12本ありますが、そのうちの1本以外はある会社なんですね。だから、そのある会社の映画がいいんじゃないかという判断も働きます。

2010年度(平成22年)興行収入上位。上位作品はほぼすべて東宝が配給している(出典:日本映画製作者連盟)

 あとは監督やキャスト。例えば(プロモーションで)すごく稼働してくれるキャストもいれば、スケジュールもあると思うのですが稼働してくれないキャストもいると思います。今回の『源氏物語 千年の謎』では、「生田斗真さんに会ったらみんなで頭を下げよう」と言うくらいいろんな番組に出ていただきました。タレントとしてのバリューもありますが、タレントのバリュー+どうやってプロモーションしていただけるかということが大事です。

 だからまず配給会社があって、それから映画の内容、原作が売れているのかということもありますし、キャストが誰か、前後に映画が決まっているか、映画のプロモーションをやってくれるかということとか、いろんな条件が積み重なっていって、最終的に脚本も読みますし、そういうものを全部考慮した上で、経験からこれくらいいくんじゃないかというものに出資するという感じですね。

 持ち込まれる映画は多い時で月に10本くらい来る時もありますし、来ない時はまったく来ません。今月はまったく来ていないのですが、その中で持ち込まれたものを精査していきます。

 別のパターンとしては、『宇宙兄弟』は僕は全然原作を知らなかったのですが、広告局で宇宙の企画をやっている後輩から「宮脇さん、『宇宙兄弟』に出資しないんですか。この1話読み切りを読んでください」と言われたのがきっかけです。『宇宙兄弟』のWebサイトに1話読み切りが載っているのですが、それを読んだ瞬間、私は涙があふれて「これはいける」と思い、作っていたのがたまたま『岳-ガク-』のプロデューサーだったので、すぐに電話をして、「製作委員会入れてよ」と話したというところです。これからはどちらかというと、そういう形を多くしていきたいと思っています。

 例えば、フジテレビが出資している映画の製作委員会を見ていただければ分かると思うのですが、多分配給会社と原作者と系列しか入っていないと思うんですね。もうかる自信があるから、ほかにパーセンテージを渡したくないということです。角川書店も以前はそういう感じでやっていました。やはり、「これはもうかる」と思ったものをみんな薄めたくないんです。

――宮脇さんの評価はどのように決まるのですか。

宮脇 評価は見る人によって違います。社長は「全体最適だ」と言っています。ある映画に出資したら、全体としてもうかればいいんじゃないかと。この前、広告局にちょっと出資させたら、結果的には良かったらしいのですが、「あまりリスクはとりたくない」と言われて、「たくさん広告もらっているでしょ」と返したら、「ごちそうさまです」と言われました。出版局も関連書籍を出して、2回ほど売れなかったことがあるのですが、それ以外は全部売れているので、横のつながり的な評価はいいです。

 しかし、事業本部という部署にいる限り、「じゃあ、事業本部の利益はどうなの?」と言われた時が一番「うっ」というところで、「広告がこんなに入ってきましたし、関連書籍も売れましたし」と言ったら、「お前は幸福な王子か。お前の金品を人に渡しているのか。どこにいるんだつばめは」と怒られて、やはり事業本部に出資がどれだけ戻ってくるかを評価軸にしないと、いろんな言いわけをしているだろうと言われるので、反省も含めて来年以降は自分の価値は投資したものがどれだけ返ってくるかということ1点に絞りますし、会社的にもそういう方向に向かっています。

――大成功と大失敗について教えてください。

宮脇 何を持って大成功や大失敗というかが難しいですね。

 『日本沈没』が53億円の興行収入をあげた時、夏公開だったのですが、8月に携帯電話に知らない電話番号から着信があって、私の中学校の同級生だったのですが、酔っぱらった声で「おお、祐介。今、同窓会でお前の名前が話題になっている。『日本沈没』で最後に出てきた名前はお前か?」と聞いてきたので、「俺だ」と答えたら、「何で同窓会に来ないんだ、みんなムッとしてるんだよ」と言われて、「いや、呼ばれていないし」みたいな話だったのですが、その時に53億円という興行収入のすごさを感じました。

 もう1つ、自分の仕事で成功したのは『毎日かあさん』だと思います。「よく素人でここまでできたな」と思います。私は本当に一生懸命いろんなところに、酒を飲みに行きましょうと言って、酔っぱらいながら取材したのですが、だいたいみんな「裏があるな。何か聞きたいんだなこいつ」というのが分かるんですね。でも、それでも教えてくれた人がたくさんいて、その人たちが定年になったり、定年間近になったりしているのですが、映画業界の中でも出版社、特に小学館の方々にはお世話になって教えてもらいました。

 その聞きかじりで『毎日かあさん』を映画化できて、アニメ放送もできたというのは大成功だったと個人的には思っていますが、会社的には「ちょっと損してんじゃないの?」と言われています。

 大失敗はこれから起きそうですね。先ほど言ったように自社の作品を映画化する時、出版社の立場として作家先生の代理をやらないといけないというところと、映画制作をやるというところが、一致する部分がほとんどなのですが、相反するところがきっと出てくると思います。作家先生が出版社に原作権を任せるということは、「自分を出版社が守ってくれる」という気持ちがきっとあると思うので、そういうところで多分板挟みになって大失敗するんじゃないか、それが怖いなと思いながら日々仕事をしています。

 出資をして1円も戻ってこなかったという映画もありますが、それはそれなりに次のプロジェクトにつながったり、広告収入が多かったりということがあるので、大失敗というのは多分これから起きるんじゃないかと思っています。

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