解熱剤で熱を下げれば、治りは早くなるの?大往生したけりゃ医療とかかわるな(6)(3/4 ページ)

» 2012年03月13日 08時00分 公開
[中村仁一,Business Media 誠]

 また鼻汁や咳、嘔吐、下痢なども同様で、治癒に向けての身体の正常な反応と考えるべきかと思います。つまり、鼻汁は、ウイルスや細菌、花粉などの体外異物、体内に生じた炎症産物を体外へ洗い流す働きをし、咳も体外異物や炎症産物である痰を排出し、気道を浄化する作用をし、また、嘔吐や下痢は、体内に入った悪いものを早く体外へ出してしまおうとする働きと考えていいと思います。

 これは原因ではなく結果ですから、止めようとするのはよくないわけです。また、止められるものでもありません。ただ、あまりに頻繁な嘔吐や下痢は、二次的に脱水を生じますので、水分補給に気をつけなくてはなりません。

 痛みも、がんや耐え難い内臓の痛みでなければ、これを鎮めようと思ってはいけません。特に、手足や腰などを動かす時の痛みは、動かしてくれるなという身体の悲鳴、警告のサインですから、それに従うべきです。例えば先の尖ったものに手を触れると、痛いから手をひっ込めるでしょう。ところが、手先を麻酔していたらどうでしょう。痛みを感じないので大ケガをしてしまいます。このように、痛みは身を守るために、とても必要なサインなのです。

 犬猫をみてください。痛かったら、じっとうずくまって動きません。万物の霊長といわれる人間が鎮痛剤を使って無理に動かすなど、まさに犬猫にも劣る所業と申せましょう。

 また、ケガをして傷をつくると、ジクジクした汁が出ます。以前は消毒して、その汁をガーゼで吸い取るのが治療の主流でした。しかし、今は、あの汁の中に傷を治すための有効成分が含まれていることがわかり、そして消毒も組織を痛めることが判明し、洗滌に変わりました。つまり、消毒しない、乾かさないで湿ったままにしておく湿潤療法が、自然の理に適っているといわれるようになりました。

 以前、私が勤めている老人ホームの同和園でもぼけた年寄りが転倒し、股の関節の骨を折り、病院に入院しました。その折、足首におもりをつけて長期間牽引したところ、アキレス腱の上部の皮膚がえぐれ、皮膚移植をしなければならないといわれ、退院してきました。ひどい状態にもかかわらず、家族はもう二度と病院へは行きたくないと申します。

 そこで、サランラップを巻くラップ療法を試みました。すると、汁が大量に出るようになり、健常な皮膚がただれますので、ラップに穴を開け、余分な汁をおむつで吸い取るようにしました。そうすると、完治まで5カ月ほどかかりましたが、皮膚移植とまでいわれた深い傷がいっさい薬などを使わず、元通りになりました。

 人間には、自前で治すしくみがちゃんと備わっていることを実感させてもらった、貴重な体験でした。私たちの仕事は、そのしくみを上手に引き出し、利用するお手伝いをすることだということをつくづく感じさせられました。

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