MBAの時代は終わった!? “事業構想力”で日本のビジネスを元気に嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(2/4 ページ)

» 2012年04月20日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

ビジネス・シーズは個々人の潜在意識下に眠っている

 MPDを育成するに当たっては2つのポイントが存在する。

 1つ目は個々の院生が独自・異質・新奇なビジネス・シーズを発見できるよう支援することで、2つ目はそのシーズをイノベーティブな製品やサービスへと転換していくための戦略、システム/プロセス、組織を構築できるよう支援することである。

 前者について、東さんは自らの体験からこう語る。

 「私はこれまで、仕事を通じて日本全国の数多くの経営者とお会いしましたが、地方に行くと、その土地ならではの歴史や風土に根ざしたビジネス・シーズはいくらでもあるわけです。ところが、そこの経営者の方々に聞くと、『ビジネス・シーズは何もない』とおっしゃる方がとても多いんですね。そこで、(本当にそうなのか確認するために)そういう方々と対話や議論を重ねてみると、なぜか、(何もないはずなのに)次から次へと画期的なアイデアが出てくるんですよ。

 どうして、そういうことが起きるかといえば、彼らの頭の中にビジネス・シーズはあるんだけれども、それが潜在意識下にあるために、対話や議論を通じて、意図的に顕在意識へとひっぱり上げない限り、本人たちが自覚することはできないということなのです。

 では、なぜ潜在意識下に眠っているかといえば、それはどんなに画期的なビジネス・シーズであろうと、そのベースになっているものは、これまでの人生において、どこかで見聞きしたり、経験したことの断片的な記憶だからです」

 こうした問題意識から、事業構想大学院大学では、「院生5人に専任教員1人」という少人数制を原則とし、1学年の募集人員も30人に限定して、教員と院生、そして院生同士の議論を通じた創発に力点を置いている。

ビジネス・シーズを効果的・効率的に引き出す方法とは?

 そうは言っても、ただ議論をしたからといって、眠れるビジネス・シーズが突如口をついて出てくるほど甘くはない。

 「何事も、本気で取り組まなければうまくいきません。本気とは気の本(もと)です。私がモチベーションの3大原則と呼ぶ『やる気・根気・元気』を有し、地域社会、そして日本を活性化することに貢献したいという志を持った、言うならば立場や意識レベルが同じ人たちが議論することが、創発を促進する上で大切です」

 そのため、今年の入試でも100人超の応募者の中から、この基準に適合した人だけを選抜したという(平均年齢35歳前後、女性2割)。

 また、議論が創造的な成果を生み出すためには、それを誘発するようなハード面での環境整備が重要である。

 欧米の成功企業は、会議・研修などのコンファレンスで「ともに学び、ともに過ごし、ともに遊ぶ」という「3つのL」(=Learning、Living、Leisure)を何より重視していると言われるが、それがこのキャンパスでも実現されている。

 教室のデザインやレイアウトはもちろんだが、注目すべきポイントは、院生や教員が授業以外の時間を過ごす教室外(建屋外と建屋内)の環境をどのように設定しているかにある。その最大のポイントは、「オンからオフへと心を切り替え得るか否か」だ。

デザイン性も意識された校舎

 なぜなら、院生が日常生活の繁忙やストレスを引きずった「オン」の状態のままでは、決して画期的なアイデアの創発など期待できないからだ。

 そういう意味で表参道の交差点そばの裏通りにあるこのキャンパスは、高級ブランド・ショップが並ぶ、静かな、いわば“非日常性”を持ったエリアであり、都心でありながら「オフ」への切り替えがしやすい。

 「この辺りは、一般的には表参道と呼ばれていますが、正式には、住所にあるように青山です。だったら、青山に本物の山を作ろうと現在、構想を進めているんですよ」

 大学の正面入口には、東さんが切り株から蘇らせたクスノキが成長しているが、都心に自然を呼び戻す活動にも、東さんは尽力している。

 “青山に山を作る”構想が実現すれば、地域の人々はもちろんのこと、青山を訪れる人々も心浮き立ち、院生たちの創発性を一層高めるとともに、都心のオアシスのような空間になるだろう。

 一方、建屋内については、教室以外の空間が、院生と教員、あるいは院生同士が「ともに過ごすこと」さらには「ともに遊ぶこと」を促進するような空間作りになっている点は注目される。

 画期的なアイデアというものは、教室で真剣に議論している最中もさることながら、むしろ、一歩外に出て、キオスクを囲んでコーヒーを飲んだり、仲間と雑談に興じていたりする時など、リラックスしている瞬間にこそ湧き出ると言われる。こうした点でも、画期的なビジネス・シーズの「気付き」に向けての環境整備が徹底していることが痛感される。

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