――アップルではiPodとiTunesがシナジーしており、ソニーもそれを目指したと思いますが、なぜうまくいかなかったのでしょうか。
立石 ソニーに関して言いますと、ハードとソフトのシナジーはいまだかつて実現できていませんし、できないものだと理解しています。
CDを開発した時、ソニー・ミュージックエンタテインメントを持っていたから、音楽CDを出してくれてそれがヒットして、レコードに取って代わったとよく言われます。「だから、ハードメーカーがコンテンツメーカーを持つのは意味があるんだ」とも言われるのですが、それをシナジーと言えるのかどうか。
例えばDVDに関して、DVDプレーヤーをソニーが作りましたが、コンテンツを配給するソニー・ピクチャーズエンタテインメントが出してくれたかというと、著作権の問題とかいろいろあって、ハリウッドが団結したため、そううまくはいかなかったですよね。だから僕はソフトとハードのシナジーというのは、幻想かなと思っています。
藤森 私も立石さんと同じ考え方で、アップルがソフトを持っているわけではないですよね。ほとんどの利益はハードから出ていますし、エコシステムをうまく作ったということが優れていたんだと思います。
ソニーが持っていなくてアップルが持っていたものは恐らくOSだと思います。ソニーもOSを持っていた時期はありましたが、そこをうまく活用できなかったことがその後エコシステムを作れなかった最大の理由ではないかと思います
――シナジーを出している会社で思い当たるものはありますか。
立石 知らないですね。シナジーという言葉にこだわりすぎるんじゃないかと僕は思います。結果的に相乗効果が生まれることはあります。しかし、「相乗効果を求めて●●をやる」とみなさんよくおっしゃるのですが、求めるがゆえにそれが逆に足かせになってうまくいかないケースの方が私はよくみかけます。
――立石さんのお話の中でソニーがとるべき戦略として、ポートフォリオ戦略とダウンサイジング、の2つを挙げられましたが、立石さんはどちらをお勧めになるのでしょうか。
立石 個人的なノスタルジーとしては、(ダウンサイジングして)エレクトロニクスメーカーであってほしいとは思います。ただ、これだけ巨大な企業になっているため、多くの人の生活や事業に関連してくるので、CEOがどう考えるかということだと思うんですね。
ポートフォリオ経営も僕はいいなと思っています。なぜかというと、過去にこだわるのではなくて、「ソニー東京はエレクトロニクスをやりなさい、ソニー・アメリカはエンタテインメントをやりなさい。うまくいかなければあなたたちを売ってしまいます」というプレッシャーを上からかけられるわけですね。そういうことでソニーという会社が、良く分からない企業グループだけど存在しているというのもいいかなと思っています。
――ソニーがダウンサイジングして、エレクトロニクスビジネスに集中して良くなると本当に思っていますか。
立石 僕はイエスですね。それはソニーがアップルのような会社になるという意味ではありません。
ソニーの強みはやはり映像の技術です。それが今、ソニーのどこに残っているかというと、僕らが通称「厚木(ソニー厚木テクノロジーセンター)」と呼んでいる、放送業務用制作機材を開発してきたところだけです。そこでは20〜30年前からデジタル技術、半導体、CCDイメージセンサ、ハイビジョンなどを研究してきて、それが今やっとすごいという話になっているわけです。
厚木ではジョージ・ルーカス監督の要望に応えてHDカメラを開発しましたし、ジェームズ・キャメロン監督が水中撮影する時に「立体撮影できるカメラが欲しい」と言った時に3Dカメラを作りました。
その厚木がHDカメラの4倍の解像度で撮影できる4Kカメラを作り、4Kプロジェクタを作っています。そして今、そのハイエンドの技術をコンシューマにいかに落とし込むかということをやっています。つまり、ソニーは映像と音を中心とした技術を使った機械で再生するしか僕は道はないと思っています。その映像のビジネスというのは、僕は新産業につながっていくものだと思っています。
それは将来的にはソニーだけではなく、ほかの日本の電機メーカー、あるいはほかの産業にも声をかけながら広がっていき、映像を中心としたメーカーとして生き残る可能性があると僕は思っています。
――ソニー社内でダウンサイジングは本当に真剣に議論されていると思いますか。されているとしたら、いつ結論は出そうですか。
立石 平井氏や平井氏のチームは、1995年にタスクフォースが研究した話のことは知らないと思います。なぜなら平井さんやそのチームは、ソニーの本社にいなかったからです。
私は2011年1月のCES(米国最大の家電ショー)でソニーブースを見て、ハワード・ストリンガー氏のスピーチを聞いた時、彼は平井さんを後継者にするんだと確信しました。
2011年の2月か3月の始めだったと思いますが、私は平井氏に会いました。その時の印象はソニーの人というより、ソニー・コンピュータエンタテインメントの人という感じでした。彼はソニー本社のEVP(役員)で、それから1カ月後に副社長になりました。
私は平井氏と話した時、2つ疑問に思いました。
1つは、平井氏は私にソニー本社の名刺とソニー・コンピュータエンタテインメントの社長兼CEOの名刺を渡したことです。私はソニーの取材を1994年暮れから始めて17年くらいになりますが、そんなことをした本社の役員は1人もいませんでした。
彼はソニー本社の立場から、子会社であるソニー・コンピュータエンタテインメントが何を要求されているかを考える、「ソニーグループを俯瞰(ふかん)して見る訓練」を受けていないと思いました。つまり、彼はソニー本社にいながら、ソニー本社のことをほとんど知らないということですね。
2つ目ですが、テレビ事業の話を彼としました。彼はいろいろなことを言いましたが、僕には結局、他人事のように聞こえました。そこで僕は彼に最後に「テレビ事業が7期連続で営業赤字ということを、トップマネジメントの一員であるあなたたちはもっと真剣に考えるべきだ」と言いました。
彼はソニー本社の当時3年目のEVPで、ハワード・ストリンガー氏が後継者にしたいと思った人なのに、本社の危機感を共有していないんですね。だから僕はそれが終わった後、ハワード・ストリンガー氏の側近から「どうですか?」と聞かれた時、「今のままでは社長は無理でしょう」と答えました。
ただ、平井氏の社長就任が決まった2月の記者会見、それ以後にも社長として初めて出た国内向けの記者会見があったのですが、その時のスピーチは今までとまったく変わっていました。つまり、CEOとしての自覚が出てき始めたと感じました。彼は今、必死になってソニーグループ全体を俯瞰してみようという勉強中と言ったら失礼かもしれないですが、その最中だと思います
だから彼が今一番必要なのは米国で言う大統領首席補佐官、日本で言うと内閣官房長官です。このような人を彼が得られるなら、今のソニーを何とかするだけの力を持っているんじゃないかとは思います。もしその人が得られたら、(ポートフォリオ経営とダウンサイジングの)どちらにするかという回答はおのずと出てきます。
――ポートフォリオ経営かダウンサイジングかというところで、立石さんはダウンサイジングをお勧めしているとしか聞こえなかったのですが、私もそれに賛成です。ただ、エレクトロニクス事業出身ではない社長がエレクトロニクス以外の事業を切り捨てるのは勇気がいると思うのですが。
立石 今の平井氏のスタッフでそれは無理かもしれません。ただ、「切り捨てる」という言い方はちょっときついのですが、上場すればいいと思うんですよ。
ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントもソニー・ミュージックエンタテインメントも一度ソニーが中に取り込みましたが、全部上場します。上場して、上場益をソニーのエレクトロニクスの再建に全部投資し、ソニーが10%程度の株を持って、みんな独立して頑張ってもらって、利益は中で使っていいよ、ただコラボすることがあったらしましょうという形が僕は一番現実的かなと思っています。
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