ソニー新経営陣が解決しなければならない構造的問題とは(1/5 ページ)

» 2012年04月25日 11時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 トランジスタラジオやウォークマン、プレイステーションやVAIOなど、高いブランド価値を持つ製品を生み出してきたソニー。しかし今、テレビ事業の不振などによって、2012年3月期の業績見通しを5200億円の赤字と見込む結果となっている。

 こうした厳しい状況のもと、4月1日にハワード・ストリンガー氏から社長兼CEOの座を譲られた平井一夫氏。ソニーが復活するにはどのようなことがポイントとなるのか。幹部などへの長年の取材をもとに『さよなら!僕らのソニー』でソニーの現状を描き出した立石泰則氏と、バークレイズ・キャピタル証券で家電アナリストを務める藤森裕司氏が4月23日、日本外国特派員協会でソニーや日本の電機産業の未来について語った。

立石泰則氏(左)と藤森裕司氏(右)

ソニーはどういう会社なのか

立石 ソニーでは4月1日にハワード・ストリンガー氏が退任して、平井一夫氏が社長兼CEOになりました。そして、4月5日には経営方針説明会が行われました。しかし、そこで平井氏が掲げたソニーの再建案はあまり評価されませんでした。それは従来とあまり変わらなかったからです。私はソニーが避けて通れない構造的な問題がこれまであったにも関わらず、それが放置されてきた結果が今になったと思っています。

『スパイダーマン』

 ソニーは私たち(日本人)にとってはエレクトロニクスメーカーですが、ストリンガー氏によると米国では『スパイダーマン』に代表されるようなエンタテインメントの企業、またある人によるとゲームメーカーであるというように、いろんな顔を持った会社です。しかし、私はここが一番の問題だと思っています。つまり、「ソニーがどんな企業か分からなくなっていることが問題だ」と考えているからです。

 ソニーは事業会社でありながら、同時に持株会社としての機能も求められるようになっています。それは中間持株会社であるソニー・アメリカを、持株会社として支配しているからです。そして、ソニー・アメリカの下にソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・エレクトロニクスといった子会社があります。

 ソニーは地域統括会社として、ソニー・チャイナやソニー・ヨーロッパなどを持っていますが、それらは全部セールスカンパニーです。なぜ事業会社でありながら持株会社的な機能まで持たなければならなくなったかというと、コロンビア映画(現ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)やCBSレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)を買収した時、それらをいかに管理するかということから中間持株会社を作らなければいけなかったことに起因しています。

 つまり、事業会社としてのソニーにはエンタテインメントが分かる人がいません。そのため、コロンビア映画を買収してソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを作っても経営できないので、丸投げして、誰かに任せるしかありません。

 ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントは、創業者の盛田昭夫氏と(5代目社長の)大賀典雄氏がハードとソフトのビジネスの融合を目指して買収しました。巨大な投資をして、エレキ(電器事業)への効果を期待した会社です。

 ご存じのようにソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの経営は当初失敗します。米国で出た『Hit and Run』という本では、いかにソニーが食い物にされたかということがよく書かれています。それはハリウッドの映画会社の経営がいかに難しいかということの表れでもあります。

 もちろんソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの管理はその親会社であるソニー・アメリカが行うわけですが、当時のソニー・アメリカのトップだったマイケル・シュルホフ氏は大賀氏の信任の厚い人でした。逆に言うと、本社の言うことを聞かなくて、独自の行動を展開することになりました。

 そのため、ソニー本社の役員たちにはとても不満が募りました。つまり、マイケル・シュルホフ氏がソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを、あるいはソニー・アメリカをと言ってもいいと思うのですが、あたかも自分の会社のように扱い、治外法権化しているのではないかということです。

ポートフォリオ経営かダウンサイジングか

立石 1995年に出井伸之氏が社長になった時の課題はいろいろありましたが、1つはそのソニー・アメリカの問題がありました。「誰がボスか」「本社はどこにあるか」を示し、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントをどうするかという問題を解決しなければなりませんでした。

 ソフトとハードの融合、あるいは今後コンテンツをつなげるネットワークのことを考えると、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを再建し、そのコンテンツを利用した事業をやらなければならなかったので、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントをソニー本社から見て良い会社にする必要がありました。

 結局、マイケル・シュルホフ氏は事実上、解任されるのですが、後任をどうするか、あるいはソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントをどうするかということで出井氏は随分悩みました。一時、ソニー・アメリカは戦略的な本社としての管轄権などを剥奪されて、東京から出井氏が直接コントロールするようになりました。

 しかし結局、出井氏はその後、ハワード・ストリンガー氏をマイケル・シュルホフ氏がいた地位に置いて、同じような権限を与えざるをえませんでした。なぜならハリウッドなどのエンタテインメントが分かる日本人がいなかったからです。それで「任せるしかない」という結論になったのです。

 そのころ、ソニーの社内にいくつかのタスクフォースがあって、「これからのソニーはどうやっていくか」という検討が行われていました。レポートはまとめられましたが、1つ書かれなかった内容がありました。それは「ソニーが今の形態のままではうまく回らない」ということです。

 それを防ぐためには2つの方法しかありません。1つはソニー・ホールディングスのような持株会社を作り、ソニー・アメリカにエンタテインメントを全部任せる、ソニー・東京にエレクトロニクスを全部任せる、ソニー・コンピュータエンタテインメントにゲームを全部任せるというように、中間持株会社を作って、その下に事業会社を並べるという形です。

 ソニー・ホールディングスは中間持株会社に予算や人事権などあらゆるものを与えて、経営には関与しない。ただし、数値目標は与えて管理する。つまり、ポートフォリオ経営を行うということです。当時ソニーグループは売上高約4兆円で、従業員約13万人でした。それをグループ運営するためにはポートフォリオ経営しかないという考え方です。

 もう1つはエレクトロニクスの会社として生き残るならば、関係ない事業を売却するなりして、売上高2兆〜3兆円の会社にして、ハイエンドなものを作っていく会社になるべきだという考えです。

 歴代のCEOはこの選択をして新しいソニーを目指すべきだったのに、放置されたまま今日まで来ているのが結局問題なのです。

 だから、エレクトロニクスが良い時やエンタテインメントが良い時がそれぞれありましたが、お互いが良い時はなかったわけですね。ソフトとハードの相乗効果、融合と言いながら、それは実現しませんでした。

 平井氏もソニーの復活を掲げるなら、この構造的な問題をどうすべきか、どちらを選択するのか決断しなければなりません。グループで行きたいと思うなら、ポートフォリオ経営をしない限り、維持できません。エレクトロニクス事業中心で行きたいと思うなら、関係ない事業をすべて処分して、「売上高8兆円を目指す」とか言わずに、売上高3兆円ほどでハイエンドな製品を作り、アップルに対抗していく形をとるしかないと思います。

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