なぜマスコミは“事実”を報じなかったのか新連載・さっぱり分からなかった、3.11報道(1)(3/7 ページ)

» 2012年07月20日 08時02分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

カレンダー記事+セレモニー記事=猛毒

――烏賀陽氏が定義した粗悪記事の中に「カレンダー記事」というものがある。これは「あれから○カ月」といった記事である。3.11報道でもこのカレンダー記事が、数多く見受けられた。

 著書『報道の脳死』の中ではこのように解説している。「『大事件・大事故の日付を契機として、その教訓を再考する』こと自体は悪いことではない。批判する対象でもない。問題は、その記事のほとんどが『セレモニー記事』に堕落していることだ。(中略)カレンダー記事とセレモニー記事が合体すると、これは『猛毒』である。記事がどんどん『前年と同じ』『前回と同じ』になって定型化してしまうからだ」(72ページ)と指摘する。

相場英雄氏

烏賀陽:被災地の現場にいる記者は「こうした記事を書きたい」と思っていても、デスクなど編集側は東京や県庁所在地支局にいる。紙面を「埋める」のが仕事の彼らは「あ、今日は『あれから〜年もの』の日だ。原稿があるぞ」とホッとする。

 カレンダー記事が増えるのには動機があるんですよ。そのうちに「今日は『あれから〜年もの』の記事が載せなくてはいけない」といった感じになり、ニュースセンスが劣化していく。

相場:カレンダー記事がルーティーンとして組み込まれていて、現場記者は発注モノのために取材をする。そのために時間を奪われてしまい、独自ネタの取材ができない……。現場ではこうした皮肉な現象が起きていたのでしょう。

 東日本大震災は第二次世界大戦と同等、いやそれ以上の惨劇かもしれないのに。

烏賀陽:戦争は人間が相手ですから、降伏すれば終わります。でも津波、地震、原子力は、自然が相手なので、降伏したくても向こうは止めてくれない。なので状況は「戦争より悪い」と思っています。

相場:私は現役の記者ではありません。軸足は小説に置いているのですが、皮膚感覚で「これはヤバイ。なんとかしなきゃ」と思い、物資を届けに行きました。

 かつての同僚が「僕は被災地で取材をしていない」というので聞いたんですよ。なぜ、現場に行かないの? と。そうすると「いや、オレは担当じゃない」との返事が返ってきました。

烏賀陽:ああ、言いますよね。「担当じゃないから」って。

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