――阪神・淡路大震災のとき、ある取材方法が問題になった。それは家族を失った被災者に「お気持ちは?」とマイクを向けたことだ。3.11報道でも、子どもたちにマイクを向ける姿が見られた。
被災者にマイクを向けることについて、2人はどのように考えているのだろうか。烏賀陽氏は著書『報道の脳死』の中でこのように書いている。「家族を失った人に会って取材するのは『悪い』ことではない。単にカメラとマイクを向けて『今のお気持ちは』と尋ねる取材技法が幼稚すぎるだけなのだ」(87ページ)と。
そして「えくぼ記事」がはびこる背景には、新聞社の中には組織の断片化と紙面政策の手抜きがあるため。テレビは自己防衛があると指摘し、「いずれにせよ、報道から失われていくのは『現実感覚』である。まるで底の抜けたバケツのように」と痛烈に批判している。
また相場氏もBusiness Media 誠で「その報道は誰のため? 被災した子どもにマイクを向けるな」という記事を書いた。震災後、大手マスコミによる報道が過熱し、被災地から批判の声が噴出する。なぜ批判が出たのか。それはマスコミが傷ついた被災者の心をえぐるような質問をしたからだ、と指摘した。
相場:被災者への取材はものすごく気をつかいましたね。石巻市にある避難所で、マスコミと被災者の間でトラブルが生じました。
そこはお年寄りが多い避難所だったのですが、マスコミが来ているときにちょうど移動巡回バスが来たんですよ。在京のテレビ局と大手新聞社の記者は「絵になる!」と思ったのでしょうね。いきなり診察風景の撮影を始めました。
その光景を見た、避難所の代表者は「お前ら許可をとれ!」と杖を振り回しながら怒っていましたね。彼らは取材の手順すら踏んでいなかったんですよ。避難所へのあいさつもなければ、代表はどなたでしょうか? と聞きもしない。
烏賀陽:そりゃ記者の技量とかジョブスキル以前の問題でしょう。人間としての礼儀や良識の話。
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