「長距離鉄道旅行」の終焉が、近づいてきた杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年07月27日 08時02分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

周遊きっぷは「フリーきっぷ未開発時代」の名残

 周遊きっぷの元祖は、高度成長期の1955年に誕生した「周遊券」だ。全国の観光地などについて国鉄が定めた「周遊指定地」を2カ所、あるいは「特定周遊指定地」を1カ所以上回るきっぷだ。「出発地に戻り、国鉄の乗車距離が101km(キロメートル)以上」という条件で、国鉄は2割引、連絡する他社の鉄道やバス路線は1割引になった。いわばオーダーメイドの割引クーポンである。

 翌年の1956年からは、北海道、東北、信州、四国、九州など、広範囲なエリアを乗り放題とする「ワイド周遊券」が発売された。これは周遊券の簡易版で、往復経路は指定ルートから選択でき、エリア内は乗り降り自由。往復、指定エリアとも急行自由席を利用可能。後に指定エリア内の特急自由席も乗れるようになった。40代以上の汽車旅好きの方なら「夜行急行列車と青函連絡船を乗り継いで北海道ヘ、道内の夜行列車で泊まって宿泊費を節約する」という旅を経験した方も多いだろう。

 1970年にはエリアを狭めた「ミニ周遊券」が誕生した。エリア内は特急に乗れなかったが、狭いエリアだけに料金が安く、手軽に出かけられた。当時は周遊券以外のフリーきっぷは少なかった。また、往復きっぷの代わりに使う人も多かったはずだ。

 国鉄からJRに移行して約10年たった頃、これらの「周遊券」「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」を統合して作られたきっぷが「周遊きっぷ」だ。「周遊券」のようにルートの自由度を持たせ、指定エリア内は「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」のように使える。周遊きっぷのゾーンが当初67もあった理由は、「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」を継承したからだ。

 しかしそのゾーンがどんどん減ってしまった。2012年春には19も減って、残す地域は13となった。理由は「販売実績が少ないから」というが、宣伝もせず、公式Webサイトに説明もなければ新規利用者が増えるはずもない。もはや周遊きっぷは「ワイド・ミニ周遊券」のうまみを覚えている「古い汽車旅好き」のために残された“裏メニュー”だ。

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