そうして生み出された“裏ワザ”のなかで、罪悪感少なめでビギナー向けだったのが「てんぷら」である。架空の住所と三文判で契約をでっちあげる――要するに今回、NHKの地域スタッフがやったカラ契約のことだ。
カブっているのは他にもある。てんぷらがバレてしまった拡張員らはどうするか。契約をとれないとオマンマの食い上げなので、ムチャな訪問勧誘をする。オートロックマンションに忍び込むなんてまだかわいいもんで、とにかく署名捺印をさせようと、気の弱そうな人や女性なんかに脅迫じみた言葉で迫る。新聞拡張業界で言うところの「カツカン(喝勧)」である。
『週刊新潮』の記事では小さな扱いだが、実はNHKにもカツカンの被害者がいる。20歳のひとり暮らしの女性で、自宅にはテレビもパソコンもなく、ワンセグのないスマホしか持っていない。ところが、若い男がズカズカと家まで上がり込んで、「受信料をとるまで帰らない」と居座った。
身の危険を感じた彼女は契約を結んだ。周囲に相談して、放送局にクレームを入れれば解約できると聞いたが、「この男が報復に来るのでは」と怖くて、今も受信料を払い続けている。
新聞拡張員の場合、玄関のチェーン越しでも対応できたが、NHKの徴収スタッフの場合はそうはいかない。「テレビがない」と言い張る人に対して、「本当ですか? ちょっとお邪魔しますよ」なんて調子であがりこんでしまう。威勢のいいNHKの兄ちゃんを怖がっているひとり暮らしの女性は多い。
もしこの手の話がどこかの大企業で発覚したら、マスコミは鬼の首をとったかのように叩きまくる。だが、この受信料徴収トラブルやら、新聞の「押し紙」問題というのは取り上げられていない。
もしかしたら知らないのかとも思ったが、NHKなんかはちゃんと新人研修で、受信料徴収の仕事を体験させている。現場でどんなことが起っているのか、少し取材をすれば分かりそうなもんだ。
わかっちゃいるけど報じない――。そう聞くと、なにやら「マスコミタブー」のようなものと思うかもしれないがそうではない。NHKにも立派なジャーナリストがたくさんいる。立派がゆえ、「権力を監視する尊い仕事を支えているんだから、そんな細かい話は見逃してよ」というのが本音なのだ。
つまり、この問題から透けて見えるのは、自分たちのことを一般社会のルールが免除される“特別な存在”だと思っているといいう「勘違い」だ。
冒頭で、このインチキがすべてのマスコミに共通する「病」だと言ったのはこれが理由である。
かって新聞のことを「インテリがつくってヤクザが売る」と揶揄された時代があったが、「インテリ」ぐらいならまだよかった。「第四の権力」なんて持ち上げられているうちに、とうとう「エリート」になってしまったようだ。
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