なぜ空洞化でアニメーターが足りないという声が生まれるのか：アニメビジネスの今・アニメ空洞化論（3/4 ページ）

[増田弘道，Business Media 誠]

人材を育て続けてきた東映アニメーション

　一方、東映アニメーションは、1958年に『白蛇伝』を制作するにあたり、本格的にスタジオを稼働し、人材雇用を開始した。そして、1960年代前後から現在に至るまで、日本のアニメを支える人材を切れ目なく育てている。実写映画界のように自社人材の育成を断念せず、半世紀以上に渡ってスタッフを育て続けた結果だろう。

　実写映画界でも多くの人材をスタジオが抱えながら自然と才能が育つ環境があったが、同様の環境が現在のアニメスタジオにあるのではないか。日本の実写映画よりアニメの国際的な評価が高くなっている背景には、地道な人材採用と育成があるからではないだろうか。このようにスタジオが機能している限り人材は育つはずなのである。

　アニメ業界がスタジオを維持でき、実写映画業界がスタジオを維持できなかった背景にはテレビとの関係がある。

　アニメ業界はテレビアニメを供給するなどテレビと良好な関係を築いたが、実写映画業界は後発メディアであるテレビを抑え込むため、五社協定というものを作り、専属の俳優をテレビに出さなかった。その結果、テレビ側が自前でタレントを育てたところ、メディア力の差でテレビ側のタレントの方が有名になり、実写映画業界が衰退する一因となった。

　一方、米国ではハリウッドのロビー活動によって、テレビ局がゴールデンタイムの番組を制作することが禁止となり、ハリウッドの映画会社がテレビ番組を作り、不況の1960年代を乗り切った。この違いが、現在の日米の映画のレベルの差になっているのである。

東映アニメーション出身の主な映画監督（『日本映画人名事典 監督篇』などの資料をもとに筆者べ）

監督名	入社年	生年	出身大学	代表作
白川大作	1958年	1935年	慶應義塾大学	東映に入社し当初動画部企画課所属
杉井 ギサブロー	1958年	1940年	外苑中学	17歳で東映動画入社、その後虫プロに移籍
黒田昌郎	1959年	1936年	早稲田大学	日本アニメーションなどで活躍
高畑勲	1959年	1935年	東京大学	Aプロダクションなどを経てジブリ設立
池田宏	1959年	1934年	日大芸術	1985年退社後任天堂に移籍
明比正行	1959年	1937年	日大芸術	東映に入社し当初実写助監督
設楽博	1960年	1936年	日大芸術	東映入社後東映動画に移籍
勝間田具治	1960年	1938年	日大芸術	東映入社後東映動画に移籍
平田敏夫	1960年	1938年	武蔵野美術大学	アニメーターで活躍後、虫プロなどで演出
佐々木勝利	1963年	1943年	日大芸術退学	1970年代に独立しフリーとして活躍
芝山努	1963年	1941年	明治大学	Aプロダクションなどを経て亜細亜堂設立
宮崎駿	1963年	1941年	学習院大学	Aプロダクションなどを経てジブリ設立
小林治	1963年	1945年	ｰ	東映動画入社、独立して亜細亜堂設立
葛西治	1964年	1941年	日大芸術	東映アニメーション以降も主軸として活躍
辻伸一	1964年	1944年	育英高校	アニメーターとして入社、その後演出
クニトシロウ	1964年	1941年	早稲田大学	アニメーターとして入社、その後独立
森下孝三	1970年	1949年	専門学校	現東映アニメーション取締役副会長
早川啓二	1972年	1950年	−	退職後日本アニメーションなどで活躍
西尾大介	1981年	1959年	立命館大学	東映動画第1期研修生
佐藤順一	1981年	1960年	日大芸術	東映動画第1期研修生、その後独立
貝澤幸男	1981年	1960年	−	東映動画第1期研修生
梅澤淳稔	1981年	1960年	横浜放送映画専門学院	東映動画第1期研修生
芝田浩樹	1981年	1960年	横浜放送映画専門学院	東映動画第1期研修生
志水淳児	1983年	1960年	−	東映アニメーション所属
幾原邦彦	1986年	1963年	京都造形芸術大学	東映アニメーション第2期研修生、その後独立
今村隆寛	1986年	1964年	−	東映アニメーションの主軸として活躍
宇田鋼之介	1986年	1966年	東京デザイン専門学校	東映アニメーション所属
小坂春女	1988年	1968年	−	退職後現在はフリーとして活躍
細田守	1991年	1967年	金沢美術工芸大学	アニメーターとして入社、演出を経て独立
境宗久	1993年	1971年	−	東映アニメーション所属
長峯達也	1993年	1971年	−	東映アニメーション所属
地岡公俊	1996年	1973年	−	東映アニメーション所属
橘正紀	1996年	1976年	−	独立してキネマシトラス取締役
松本理恵	−	1983年	−	東映アニメーション所属