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» 2012年11月07日 08時00分 公開

アニメビジネスの今・アニメ空洞化論:なぜ空洞化でアニメーターが足りないという声が生まれるのか (4/4)

[増田弘道,Business Media 誠]
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なぜアニメーターが足りないという話が出るのか

 「動画が海外にアウトソーシングされると、国内で原画を育てる機会がなくなるので空洞化する」という話に関しては、現状では予断に過ぎないことが分かった。では、空洞化で国内のアニメーターが足りないという考え方がどこから来ているのか? これは、実際にアニメを制作している業界内と業界外では、経緯が異なっていると思われる。

 業界内の場合、アニメーターに限って言えば、多くの人材がおり若手が育っていることは承知している。それなのに、なぜ不足していると言うのか。それは「自分たちの制作現場のアニメーターが足りない」ということなのである。

 日本のアニメーターの推定数は3100〜4500人で、現在放映しているタイトルが70(10分以上の番組)ほどなので、単純計算で1作品当たり44〜64人。劇場アニメや1月や4月始まりの新番組の作業も行われているため、実際はもっと少なくなるが、潤沢とは言えないものの、十分な人数ではある。

 だが、実情はやはり「アニメーター不足」なのである。アニメーターが3100〜4500人もいても、作品の傾向があるので、仕事を頼める人間は限られることがある。また、頼みたい人間に限って売れっ子の場合が多い。そうすると、逆に仕事を選ばれる立場になるのである。仕事を頼みたいアニメーターのスケジュールを獲得するのは本当に大変で、調整に四苦八苦しているケースがほとんどだろう。

 以上のように、制作現場から「アニメーターが足りない」という声が出るのは、しばしば「自分たちの制作現場において」というただし書きが付いてのことなのである。

 一方、業界外の「アニメーターが足りない」という声は実際に現場の状況を知らないため、何らかの情報に基づいた話となっているのがほとんどで、前項の制作現場からの声もその情報の1つになっているのだろう。

 また、ちまたで盛んに言われる「若手アニメーターの労働・経済環境が厳しい」という話から、「若手が育たないのでは」という憶測が生まれるのも確かだろう。しかし、それは問題だが、結果的に若手は育っている現実はあるので、再考の必要性があるだろう。厳しい中でもアニメーターとして一人前になれる仕組みがあると言うのと、仕組みがないと言うのとでは、アニメーター志望者にとっても雲泥の差ではないだろうか。

100年間、常に不足していたアニメーター

 1917年に日本初のアニメ『なまくら刀』が公開されてからほぼ100年となるが、その歴史の中でアニメーターは常に不足気味だった。草創期にはそもそもアニメーターという職制がなく、下川凹天氏、幸内純一氏、北山清太郎氏といったマンガ家や画家によってアニメは制作された。以来、米国のような産業化が起こらず、一子相伝に近い家内制手工業的な形で人材育成が行われたこともあり、アニメーターは貴重な存在であった。

 そんなアニメ界に革命が起こったのが1956年の東映動画設立である。同社は、明確な事業目的を打ち立てながらアニメ産業を軌道に乗せた。ただ、アニメーターを定期採用しながらシステマティックに人材育成することはできたが、年間2作の劇場アニメを公開するという目標を実現するまでの人員は育てられなかった。

 そして、1963年には日本初の30分テレビアニメ『鉄腕アトム』がスタート。この作品の大成功によりテレビアニメは一気に増加し、アニメーターの需要が逼迫(ひっぱく)する状態になった。それ以来、一貫してテレビ番組を中心として制作数が増え続けた結果、アニメ業界では慢性的なアニメーター不足が叫ばれるようになったのである。

 このように100年間に渡ってアニメーターの需要が満たされたことがなかったが、ここ2〜3年は作品数が減ったこともあって、それほど逼迫した状態ではなくなったと思われる。もっとも、2011年からテレビアニメ作品数が回復基調に入ったため、この状況がいつまで続くかは定かではない。

テレビアニメ作品数推移(出典:日本動画協会)

 これはアニメーターに限ったことではないが、世の中を魅了するクリエーターはどの業界でも渇望されている。しかし、優れた才能はいつの世も一定割合しか存在しないようで、常に不足している状態だ。

 アニメ業界内での「アニメーターが不足している」という言葉の本質には、そういった人材が欲しいという意味での「良いアニメーターがいない」といったニュアンスも含まれており、「単に絵が描けるという以上の、多くの人を感動させられる絵を描ける才能が欲しい」という欲張りな要求が根本にある。その願望には、「今まで見たことのないような絵や動きを表現できる才能が見たい」という純粋なものから、「お客が呼べる(ゼニのとれる)才能が欲しい」といったものまであるが、その見果てぬ夢は決して満足されることはない。従って、アニメのさらなる表現に対する願望が消えない限り、「アニメーター不足」という現象は永遠に解消しないのではないだろうか。

増田弘道(ますだ・ひろみち)

1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。

ブログ:「アニメビジネスがわかる


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