だが、大谷のメジャー挑戦は必ずしもオイシイ話ばかりではない。新人の場合、いくらアマチュア時代に実績があったとしても米国においては日本でのバックグラウンドがほとんど関係がなくなる。米国人のドラフト1位クラスですら大半がマイナーリーグからのスタートとなるように大谷も同じくメジャーとはかけ離れた下部組織での厳しい生活を強いられることになる。
「マイナーという厳しい中で自分を磨きたいというか、そういうところでやるのも夢だった」と本人はコメントしているものの、理想と現実は大きく違うことを肝に銘じておく必要があるだろう。高校出の大谷が最初に所属するのはルーキーリーグ。その後、1A、2A、3Aと徐々に階段を上がっていくことになる。「マイナーリーグ」とは、それらの総称だ。
かつてメジャーを志しながらもマイナーリーガーのままで終わった某日本人選手は当時を振り返りながら「大谷君がマイナー生活を始めて最初に味わうのは孤独感と差別でしょう」と警鐘を鳴らし、こう続けた。
「マイナーには大きく分けて3つのグループがある。米国の白人選手、黒人選手、ドミニカ共和国の選手が中心となっている中南米出身の『ラティーノ』のグループです。その中でもかなり厄介なのが白人たちのグループ。彼らはアジア人を見下す傾向があって、自分たちこそがナンバー1というプライドがとてつもなく強い。メジャーリーガーならばともかく多くのマイナーリーガーは生き残りに必死で周りの者を蹴落とそうという意識が強いから、仕方がないと言えば仕方がない。ただ、日本人で言葉もほとんど喋れなかったボクへのイジメは露骨でしたよ。『ジャップ』と呼ばれてバカにされ、こちらが片言の英語で『ハーイ!』と挨拶しても無視され続けた。まあ、それも段々と英語をマスターしてコミュニケーションが取れるようになったことで陰湿なイジメは結局なくなりましたけどね。性格が大人しい人は、これだけで気が滅入ってしまうと思います」
それだけではない。マイナーリーグでは食生活の悩みにもさいなまれることになる。例えばレッドソックス傘下の1Aでは試合前に球団側から用意される食事はパンとピーナッツバター、イチゴジャム、それにセロリやブロッコリーの緑黄色野菜が中心のサラダが基本メニュー。ごくまれにハンバーガーが出されることもあるが、これは「豪勢な食事」なのだそう。
一応、食べ放題ではあるのだが、置かれているものがなくなった時点でジ・エンド。そのため、腹を空かせた選手たち同士で奪い合いとなり、油断していると何も口にできないまま食事の時間を終えてしまうケースもあるという。
「仕方がないから試合が終わった後に空腹を満たすため街へ繰り出すのですが、マイナーの本拠地は小さい街ばかりなので食事をする店が限られる。最終的には夜遅くまで営業しているファストフードが頼みの綱になるのです」(前出の日本人選手)
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