ビジネスホテルのプチヒット商品――「トレインビュー」とは杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年11月23日 00時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

トレインビューで人気部屋に昇格

 しかし、近年の鉄道趣味の広がりによって、線路際の「不人気部屋」が注目され始めた。騒音嫌悪の線路際が、鉄道ファンにとっては嬉しい「絶景スポット」になるからだ。部屋から電車が見える。それだけでも嬉しい上に、列車が線路の継ぎ目を通る音や汽笛も聞こえる。一般客には嫌われる音が、鉄道ファンには子守歌であり、心地よい目覚ましにもなる。

 全国にある線路際のホテルのいくつかは、「トレインビュープラン」を用意している。きっかけは私のような鉄道ファンの客からの「線路が見える部屋を」という要望だった。初めてそんな要望を聞いたとき、ホテル側はびっくりしたはずだ。今までの客の要望といえば「最上階がいい」「朝日が指す部屋」「夜景が望める」くらいだった。そうした部屋は良い値付けもできる。

 しかし、わざわざ不人気部屋をオーダーする客が現れた。ありがたいと思うと同時に「本当にいいのか?」と戸惑ったかもしれない。かくして、従来は忌避物件だった線路際の部屋が、趣味客限定とはいえ優良物件の仲間入りとなった。駅のそばのビジネスホテルだけではなく、ステータスの高いホテルにもトレインビュープランがある。

 例えば、小田急ホテルセンチュリーサザンタワー(新宿)は、高層ビルのホテルだから上層階ほど人気がある。しかし、その逆に下層階の客室を「まるでNゲージ トレインビュー宿泊プラン」として提供する。下層階と言っても22階だから眺望は良い。そして、トレインビューにとっては低いほどいい。高層階だと電車の屋根しか見えないからだ。

 秋葉原ワシントンホテルは、室内に鉄道模型ジオラマを置いた部屋「クハネ1304」を用意している。私鉄系列のホテルにもトレインビュープランがある。ホテル近鉄京都駅はトレインビュープランはないが、「全室がトレインビュー」として知られている。

 トレインビューはビジネスホテル界のプチヒット商品といえそうだ。なにしろ顧客は乗り鉄である。私のように全国の鉄道を乗り歩き、当然ながら宿泊を伴う。

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